2009年 エジプトの労働事情

2009年12月11日 講演録

1.労働事情(全般)

人  口 82,999,000人(2008年)
労働組合 エジプト労働組合総連合会(ETUF)
加盟23組織 26地方組織  組合員数4,500,000人

 労働力人口は約2,200万人で、労働者は以下の4つのグループに分けられる。
 第1は、政府および公共企業、公共部門に勤めている労働者で賃金水準は低いが社会保障によって守られ生活は安定している。
  第2は、民間企業に勤める労働者で第1のグループの権利を大部分享受している。
  第3は、非正規労働者として日雇い的仕事に従事せざるを得ない労働者で正確な統計はないが約700万人が該当する。社会保障、健康保険制度もなく労働組合による保護もない。
  第4は、多国籍企業に勤めている労働者で統計や十分な情報もなく労働者の数も不明。

2.労働組合が現在直面している課題

 労働者の置かれている状況は、民営化政策開始以前の1970年代半ばからすでに深刻化していた経済危機によって、大きな被害を蒙った。その原因は多数あるが、輸出の激減、輸入製品の価格高騰、国家予算の赤字拡大などがあげられる。
  経済改革の実施後、状況はますます深刻化し、以下のような事態が生じた。

  1. 経済改革が緊縮財政路線を採るものであったため失業率が増加。
  2. 援助の廃止と市場の自由化の結果、労働者の実質賃金が大幅に低下。
  3. 社会サービス(教育・医療・社会福祉・低家賃住宅など)への政府の支出が減少。
  4. 民営化が進み、経営者が余剰労働力を解雇し、生産およびサービス部門の労働者が大きな被害を被った。
  5. 貧困層が拡大し、失業率および物価が上昇した。

3.その問題解決に向け、どのように取り組もうとしているか

 ETUFは、労働組合への所属の有無を問わず、働く国民全員に対して責任を負っている立場から、エジプト労働者の問題解決にたゆまず努めている。

  1. 現在、賃金最高会議(政府機関で労使各5人の委員を選出)の代表メンバーを通じて、物価高に見合った最低賃金の引き上げ、労働者の尊厳ある生活の保証などに努めている。
  2. 社会保障法の改正、社会保険のための資金の確保を主張し、労働者が退職後も健康面で尊厳ある生活を送れるよう努めている。
  3. 健康保険がエジプト国民全員を対象とし、全ての労働者に治療と生活の権利を保障するよう努めている。
  4. 民営部門に対して、労働関連諸法を遵守して労働環境を改善し、職場の安全と衛生を実現するよう要求している。
  5. エジプトの多国籍企業やその活動、労働者に対する不当な待遇等に関するデータベースの構築。多国籍企業の労働者や周囲の社会に対する支援に多国籍企業が参加する必要性を主張している。
  6. ETUFは非正規労働の問題に関心をもって取り組んでおり、特に女性や児童、農業や漁業の日雇い労働者、季節移動労働者を保護する新種の組合組織を設立した。同時に、国家当局に対しては、このグループに属する労働者を中長期的に労働社会の一員として編入していくよう働きかけている。
  前述のように、政府との真剣な対話によって、貧困家庭が費用を負担することなく治療を受けることが可能な健康保険法の制定が間近になっている。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 ETUFと傘下の労働組合は、憲法をその存在の法的根拠としている。憲法第56条は「民主的な基礎に基づく労働組合および連合組織の設立は法律が保証する権利であり、これらの組織は法人格を有する」と謳っている。
 ETUFは1957年に設立された。組織の法的根拠は1976年第35号法であり、同法は1981年に改正された。同法第17条は「ETUFがエジプトの組合運動を指導し、組合運動の全体的な方針を定め、内外における目標達成のための行動計画を策定する」と謳っている。
 ETUFの目標と責務は、労働組合法およびETUF基本規定によって「エジプトの労働者の権利と利益の擁護、有為な国民の育成、社会建設への寄与、国内全体レベルで労働者にサービスを提供するための経済・社会・保健・スポーツ・福祉の各分野にわたる開発計画をめぐる議論に参与すること」と謳われている。
 労働組合組織の法的地位一般については、労働者が労働組合および連合組織の設立の自由を有しており、労働組合への参加および脱退の自由を有していることである。
 ETUFは国家の政策策定において基本的な役割を担っており、労働者にかかわる法案はETUFに提示され、ETUFはこれに対して意見を表明し、労働者の利益を損なう政策に対して異議を表明する。政府は多くの場合、国民の大多数を占める労働者の利益を尊重するため、ETUFの提案を受け入れている。ETUFに所属する労働者の数は、他の職業組合に所属する人々の合計数を遥かに上回っている。
 政府とETUFの間に意見の対立が生ずることもしばしばある。ETUFは保険・諸手当法や健康保険法の改正に反対しており、現在は最低賃金決定に向けた交渉が行われている。

2009年2月25日 講演録

エジプト労働組合総連合会(ETUF)
マフムード セヤーム(Mr. Mahomoud Seyam)

繊維労働組合副委員長兼ETUF中央執行委員

 

1.一般労働事情

 世界の人々の間で、世界金融危機とその影響に対する恐れと不安が広がっている。エジプトにおいては国が労働者の権利を保障するべくあらゆる努力をしているにもかかわらず国の推進する民営化によって多くの失業者を生んでいる。労働運動の重要かつ中心的な役割はそうした労働者の諸権利の擁護であり、経済との両輪をいかに安定させるかが労働者階級にとって重要な問題であり最適な解決策が検討されなければんらない。世界金融危機の影響は、観光業、輸出産業さらにはスエズ運河の労働者にまで及んでいる。

2.労働者が直面している諸問題

 グローバリゼーションの進行と世界金融危機の影響は、労働者に深刻な問題を惹起している。民営化や合理化、経済構造改革という名のもとに行われる人員削減、人員調整による雇用喪失である。失業者が増大しているなかに毎年約80万人の大学新卒者が加わる。民間企業は新卒者を吸収する状況にない。大量の失業者と限れた就職先、労働者の基本的諸権利も保護されない職場で働かざるを得なくなる。悪質な例では労働契約の署名と同時に辞職の書類にも署名をさせられる。社会保険の保護も受けられない労働者が増えている。

3.問題解消に向けた取り組み

 労働運動としては関係労働者の権利が完全に守られるという条件において民営化には基本的に協力している。公営企業の民営化においては労働者の既得権益が完全に保証されることが前提となる。賃金をはじめ休日・休暇なども公営企業にいたときの労働協約の諸条件が維持される。これらの協議は、三者構成で行われている。三者間の対話は新たな状況にいかに適応していくか取り組みについて協議する重要な場である。労働大臣が労働組合出身であり労働側の事情については理解を示している。
 雇用創出においては中小企業の小規模プロジェクトに対する支援により雇用の創出に貢献している。労働者に対しては教育訓練が行われている。下水道整備など公共事業投資による雇用創出も行われている。

4.労働運動と政府の関係

 政府と労働組合の関係は良好であり、労働者の合法的諸権利への侵害が発生した場合は政府と協議できるようになっている。労働運動としては団結を堅持するなかで労働者の利益保護を真に保障する活動をおしすすめている。

5.多国籍企業

 多国籍企業が労働運動にとっての大きな障害となっていることは間違いなく、多国籍企業の多くが企業内での組合活動を尊重する姿勢はない。多国籍企業は確かに失業者吸収の場になってはいるが一方で労働者の諸権利を様々な面で侵害している。