2011年 アルジェリアの労働事情

2012年2月10日 講演録

アルジェリア一般労働組合(UGTA)
Mr. ザヒール・ブージョウ
Ms. カリーマ・ブードロワーズ

 

1.労働情勢(全般)

 1980年代後半の社会主義経済から市場経済への移行後、アルジェリア経済は大きな変化を遂げるなか、国有企業の一部が民営化され、個人及び外国人投資家へ門戸が開放された。また「1989年憲法」公布後に、アルジェリアの政治体制は一党支配体制から民主主義体制へと移行し、労働権、団結権、ストライキ権、社会的交渉権、社会保障・年金受給の権利、健康で安全な労働の権利など労働者の権利原則が強化された。
 1990年代初頭にアルジェリアを襲った経済、財政危機によって、新たな雇用機会の創出が妨げられたために当時の失業率は30%を超えた。しかし、アルジェリアの治安が徐々に回復した2000年初めから、アルジェリアの主要な外貨獲得源で輸出総額の98%を占める石油価格の高騰に伴って、インフラの再構築、国民及び外国人個人投資家への支援、中小企業設立や若者雇用支援のための銀行融資、農村投資計画支援などによる国家経済の再建が進められた。こうした経済再生政策により新たな雇用機会が創出され、2011年には失業率は10%に低下した。
 アメリカのサブプライムローン問題に端を発した世界金融危機に直面する中で、政府が国有企業の民営化の進行を止め、市場の投機を阻止する役割を有する国有企業を再建することで、雇用の維持と新たな雇用機会の創出が実現された。また2011年初頭には、政府・UGTA・使用者の三者間の枠組みで200項目以上の使用者からの要請に政府が応じ、民間部門での新たな雇用創出に向けた措置が講じられた。
 広範な消費財価格の高騰により労働者の購買力が低下し、2011年に複数の分野・業種で労働者による抗議、ストライキが実施されたため、団体交渉により賃金引上げ、各種手当、一部の国有・民間企業の福利厚生の改善が行われた。政府・UGTA・使用者の三者間協議では、[1]2012年1月からの最低賃金の引上げ(15,000ディナールから18,000ディナール。日本円で2012年3月現在、約16,900円から22,000円。)、[2]定年退職者の年金支給額の引上げ(15%~30%程度)、石油会計の3%をその財源へ充当すること、[3]労働者に不利な賃金ベースの規定である87条の削除が決められた。賃金ベースの新たな規定の施行によって、アルジェリアの全労働者が賃金引上げの恩恵を享受し、徐々に労働者の環境が改善されるものと期待されている。

2.労働組合の直面する課題

 まず、労働者の購買力が低いという問題が挙げられる。これはグローバル化、世界的経済危機に直面する中で本質的な問題である。
 自由市場経済の流れに合わない一部であるが国有企業において、労働者の解雇されている。
 労働者の組合加入数が減少している。一部に組合に加入したら職場から追放される雇用契約があるために、特に青年労働者の組合加入が減少している。組合加入の減少に伴い、組合の財源が減少している。
 民間部門労働者の増加により、広範な労働者階層の組織化が困難になってきている。使用者の中には、企業内での労働組合の結成を拒否し、労働者が組織結成に関与する場合には、事業所を閉鎖すると警告する者もいる。労働者や労働組合に有利な法制度は存在しても、一部の使用者の不当労働行為、恣意的な行為によって、組合運動と企業内における支部活動が阻害され、組合活動が弱体化している。
 民間部門及び未組織部門における社会保障制度が後退している。
 また、公式発表によると40%を超す非正規労働が依然としてアルジェリアにおけるディーセントワーク実現の障害となっている。

3.課題解決に向けた取り組み

 課題の解決に向けた国民的戦略として、UGTAは次の6提案を三者構成会議に対して提起している。
 すなわち、1)購買力向上、2)民間部門における労働組合活動の強化、3)公共部門の協約を民間部門の労働協約として拡大適用すること、4)社会的連帯を強化すること、5)定年退職の扱い、6)「国家経済社会協定」の展望と言ったものである。社会的対話・協議の原則に基づき、問題解決に取り組むことはUGTAの国民的戦略の大原則である。
 青年・女性労働者の組合加入を促進するため、青年委員会、女性委員会をUGTA組織の中に取り入れ、県レベルで支部を設置することも重要である。女性の組合加入を進め組織織化キャンペーンを紡績部門で開始した。
 使用者との協議の際に、契約労働者(非正規労働者)の実態を把握するよう努めている。
 組合員が労働者の権利保護及び要求の実現に向けて交渉する力を持つことができるよう、必要な法的知識を与える研修プログラムを策定した。その研修プログラムの項目には、組合の定義と実践、女性労働者の組合加入、ジェンダー問題、労働者の組合加入促進のための戦略、団体交渉の際のテクニックなどが含まれる。
 労働組合調査研究所における、全国レベルでの組合員トレーナーの養成も行っている。
 民間部門の組織化のための国民的戦略の策定をしている。国の法制度では、民間部門における労働者の権利及び労働現場おける労働の監督が規定されている。
 三者間で締結されている国家経済社会協定を見直して、各当事者が協定を順守する条件を含める。
 労働関連の法制度の原案を起草する委員会の枠組みで、最低賃金や法の見直しを行うための集団協議を行う。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 政府とUGTA指導部は、労働問題解決のために、社会的対話や恒常的な協議を行っている。
 1990年から開始された、二者間及び三者間の定期会合による社会的対話の枠組みで、相互尊重と集団的利益の実現に向けた取り組みが行われている。政府・使用者との対話を通じて労働者の要求実現を図るUGTAの哲学は、社会的対話が労働問題を改善するための効果的手段であるということを示している。この哲学に基づいて結ばれているのが、国家経済社会協定(2006年10月合意)である。

5.多国籍企業の状況

 アルジェリアの法律を順守せず、労働組合の活動を妨害し、低賃金で、各種手当を適用せず、短期の雇用契約を強制し、労働者を解雇(雇止め)するなど不等に扱っている。
 労働者を搾取する一方で、企業は大きな利益を上げており、労働者へ適正な配分がなされていない。