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No.489(2018/1/26)
メキシコの最低賃金、約10%の引上げ
〜低賃金労働者の消費拡大に向け、春に再引上げの動きも〜
メキシコ労組の反トランプ・デモ

 昨年12月1日、メキシコで最低賃金の改訂が行われ、一般労働者については日額が10.4%引き上げられ、88.36ペソ(約506円)となった。特定職種については物価上昇率分のみ3. 9%のアップとされた。今回の引上げの特徴は、その根拠として、消費者物価上昇への対応に加え、低賃金労働者の消費拡大を掲げたことである。政府は、経済情勢の推移をみながら、今年4月までに再改定を行うこともあるとしており、賃金交渉の動向とともに、最低賃金が労働情勢の焦点となっている。

 最低賃金の改訂は、政労使の三者構成による「国家最低賃金委員会(CONASAMI)」が審議する。前回の改訂は昨年1月であり、一般労働者の日額は80.04ペソ(約458円)となっていた。今回、CONASAMIは、消費の拡大(購買力回復)のための実質改善分を5%として最低賃金の引き上げ額を示した。この背景には、経済成長が予測を上回ったこと、勤労者の貧困に関する指標が悪化していることなどがある。また特定職種では59分野について決定が行われた(今回の最高は「記者・カメラマン」の236.28ペソ(約1353円)、最低は「養鶏」の98.43ペソ(約564円))。

 最低賃金の水準については、従来から、同国の「最低生活水準」とのかい離が指摘されていた。これは政府の社会開発政策評議会(CONEVAL)が調査に基づき設定するもので、現在では95.24ペソ(約545円)である。労働団体は、最低賃金はそれを上回るべきであると主張し、職種別の引上げも求めている。経済団体は、最低賃金の増額は企業活動への負担になるとしつつも、政府による「最低生活水準」までの引上げは容認する方向である。これらを踏まえ、CONASAMIは、昨年12月の最低賃金額改定にあたり、今後の経済情勢次第では今年の4月までに再改定がありうることを示している。

 メキシコの経済は、2008年の「リーマンショック」による落ち込みののち、自動車の輸出拡大などを中心にV字型の回復をみせた。しかし、2014年以降、石油の生産減退と国際価格の下落で関連収入が大幅に低下し経済成長が鈍化した。さらに、2017年には米国トランプ政権の誕生に伴い通貨ペソが下落、物価が上昇して国民生活を圧迫し、堅調といわれた内需の落ち込みが懸念される事態となっている。同国の最低賃金引上げをめぐる動きは、このような経済情勢を反映している。

 また、2012年の大統領選では、メキシコ労働組合連盟(CTM)など労働界の主流が支持する制度的革命党(PRI)のエンリケ・ベニャニエト現大統領が勝利し、12年ぶりの政権交代を果たした。ベニャリエト氏は、当初、経済と政治の改革などで高い支持を得たが、その後の経済低迷や米国大統領への対応などから、今年7月の大統領選を前に支持率が低迷している。今回の最低賃金引き上げが内需の拡大を通じて経済の回復に結び付くかが注目される。また、同国には1000社を超える日系企業が進出しており、わが国の自動車産業では世界5番目の海外生産拠点である。最低賃金の動向が、各企業の賃金交渉に与える影響についても目が離せない状況が続くものと思われる。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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