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No.476(2017/10/3)
オートメメーション進行の中、ベーシック・インカムへの関心

 工場ロボット、無人自動運転車、ドローン配達などが進む中、職業再訓練は意味をなさないとの認識が広がり、サンフランシスコ地域やハワイではロボット税や“ベーシック・インカム”(BI)への議論が進んでいる。

 サンフランシスコからサンノゼに広がる地域ではロボットが作るピザを食べ、ホテルではロボットが差し出すトイレットペーパーを使い、ロボットが警備するショッピング・モールで買い物をする。ここではロボット税の導入が議論されている。
 観光に依存するハワイではそこに働く多くのウエイターやコック、清掃などの仕事がロボットに代替えされるとの認識から、ハワイ議会がBI導入への研究を行うことを決めた。
 ある議員は「ハワイ経済は想像以上の速さで変化している。技術革新から取り残されないで、恩恵を受けるにはどうするかを考えねばならない」と語る。

 BIの考え方は最低生活に必要な一定額を住民誰もが受け取れるとするもので、1960年―70年代にマーチン・ルーサー・キング師やニクソン大統領が提唱し、“ネガティブ所得税”と呼ばれたものだが、議会では否決された。しかし最近、マーク・ザッカーバーグ、イーロン・マスクなどの著名人がオートメーション進行を懸念して提唱し始めている。

 しかし米国でのコストは巨額となり、もしハワイで年間$10,000の支給を始めると、必要資金は年間$100億となり、年金基金に$200億の負債を抱えるハワイには耐えられない額となる。しかし各種システムを組み合わせて複合的に考えれば、実施は必ずしも困難でない。ある議員は「たとえばホテルや企業、個人からの固定資産税の徴収。アラスカで石油配当税が可能ならば、ハワイではビーチ税が可能だ」と述べる。また各種社会保障をBIに移行させること、またカリフォルニア州やワシントンDCでは排気ガス税なども考えられる。左派系シンク・タンクのルーズベルト研究所では、連邦政府による借入で可なりの経済刺激効果も期待できるという。

 BIは長期的には政治的に解決される問題だが、現在のところ博愛的な人々により実験が始められており、ケニアではグーグルやEベイ、フェースブックが組織するグループが活動を始めている。ケニアにおける小規模なケースでは、小村で12年間にわたり月額$20が支給され、村民はそれで基礎的な生活費を賄う。実験目的の一つは安定資金を支給される住民の生活態度がどのように変化するかを調べることだが、計画では100人を手始めに、$3,000万の資金が確保できれば26,000人まで拡大の予定である。ある労働者は「警備保障の仕事で故郷を離れてナイロビで働いた。しかし今はBIの御蔭でケニアに戻り家族と生活が出来る」と語る。
 カリフォルニア州オークランドの実験ではランダムに選んだ人たち数10人に月額$1,500を支給しているが、近く対象を100人に増やす。その後は1,000人を対象に月額$1,000で実験を行い、人々が時間をどう使い、金銭面や福祉面にどのような影響が出るのかを調べる。
 フィンランドではランダムな2,000名を対象に社会保障と仕事との関係の変化、仕事への意欲の刺激や手当への依存を調べている。一方インドでは運輸大臣が雇用を失う無人自動車の採用は禁じるとしている。

 再び米国だが、アラスカでは長年石油開発収入により、州民に年間$1,000-$2,000を支給してきたが、調査では72%が緊急事態や借金、退職や教育に備えて貯蓄したと答え、1%だけが仕事を減らしたと答えた。そして支給を施しとは考えていない。
 前述のハワイではこの秋に、政治家や経済、社会保障、実業界や労働組合の関係者が会議を開催してBIを巡る諸課題を検討する。先述の議員は「その際、完全支給か部分支給かも検討するが、経済変化に飲み込まれるのではなく、BIのような対策を講じる方が費用は大幅に安く済むと思う」と語る。

 しかし批判派の人々は「多額の費用もさることながら、労働意欲を阻害し、生産性も低下させる。ホームレスが一番多いハワイで、BIは更に多くの失業者をハワイに呼びこむ。ただでさえ温暖なハワイだ。BIは間違いだ」と語る。

北米自由貿易協定再交渉、メキシコの低賃金に集中砲火

 北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の第2ラウンドがメキシコ・シティで行われ、メキシコの低賃金が集中砲火を浴びた。
 米国は労働基準の強化に力を注ぎたいとしたが、低賃金と低労働条件を武器に工場誘致や投資を増やしたメキシコは、労使そろって賃金労働条件引き上げに繋がるいかなる方策にも抵抗の構えである。

 メキシコ自動車産業の平均賃金は時間当たり$3.95と米国の9分の1だが、カナダの自動車関係労組のリーダー、ジェリー・ルイス氏は「NAFTAの下では3国の賃金は均一であるべきだ」と述べた。しかしメキシコ労組の指導者カルロス・アセベス・デル・オルモ氏は「それは夢想だ。メキシコ賃金と米国、カナダとは比較にならない」と反論した。メキシコ経済特区のガンディアニ会長も「現行の労働法と憲法から逸脱することは期待できない」と語り、政府寄りの労働運動を擁護する姿勢を示した。メキシコ農業団体会長も「米国はメキシコ問題に首を突っ込むべきでない。メキシコも米国とカナダの問題には介入できないが、逆も真なりだ」との談話を発表した。

 再交渉では原産地やローカル・コンテンツ、電子取引、環境、汚職問題なども話し合われた。第2ラウンドの交渉は25グループに分かれて行われ、5日目となる9月5日に終了の予定といわれる。第1ラウンドは8月中旬にワシントンで開催されたが、これからも多くの交渉が続く。

アプリ配信タクシー運転手の労働組合結成に“待った”の判断

 ウーバーやリフトといったインターネット・アプリ配信によるタクシー会社の運転手の労働組合結成問題が連邦巡回上訴裁判所で“待った”を掛けられた。
 米国西海岸のシアトル市は2015年に「タクシーやハイヤー、アプリ配信の運転手の過半数が労組結成を希望するときは、それを認める」法律を制定した。趣旨は変化する21世紀にあって、これら労働者の労働条件を守ることは安全かつ信頼性ある産業を造るものと規定した。

 しかし各企業など反対派は法律が連邦労働法に違反し、公共サービスに甚大な被害を及ぼすとしてアピール、これについて今回の上訴裁判所判断は法律の実施停止を命じることになり労働組合結成が出来なくなった。裁判所は最終審査までは理由を説明できないとしている。
 シアトル市は最低賃金の段階的な$15への引き上げや有給病気休暇の付与など、労働者の権利を先進的に推進していることでも知られる。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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