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No.473(2017/9/11)
連邦政府の人員整理にからむ問題事例の数々

 トランプ政権は政府機構縮小の一環として、勤務態度の悪い職員の整理を実施しつつ、同時に無駄の排除、汚職の追放、職権乱用の排除を打ち出している。
 同時に、共和党もオバマ政権時代の労働規律の緩みを非難しつつ、幾つかの省庁における問題事例を指摘して、厳しい対処を要求している。

 復員軍人庁(350,000人)では2014年に傘下の病院で待機患者リストを偽造する事件が起きた。復員軍人は14日以内に診療を受ける権利があるが、対応遅れにより多数の死亡者が出た事件に病院が名簿を改ざんしたもので、去る7月に人事処分の内容が発表された。トランプ政権成立以降に525名が解雇されているが、責任者は解職された後に業務が回らないとの理由で原職に復帰している。
 さらに、9.11事件の後に創設された国土安全保障省では、検査官が全職員にアンケートを実施して必要な対応が確立できているかどうかを質問しつつ、勤務態度についての検査を行っている。
 商務省では長年指摘された特許庁におけるタイムカードの不正報告が調査され、内務省は性的ハラスメント問題で今月にはイエローストーン国立公園の十数名の職員が処分された。

 しかし、こうした汚泥一掃を試みるトランプ政権に対して、強力な労働組合そして長い間の保護に慣れきった公務員を変えるのは容易でない。

 特に特許庁の件では3年の調査を経て始めて、嫌疑の掛かった20数名の内18名が処分された。酷いケースでは、1日2時間しか勤務実態のないものを8時間と偽り、2時間の残業代まで詐取していたが、労働組合は「組合員は常に勤務体制を敷いていた。仕事を早く終えた後でも次の仕事を待機する態勢にあった。これは10数年も黙認された慣行だ」という。
 商務省のタイムカード問題には、フレックス勤務とテレワークが絡み、不正により多額の残業代が請求された。会計検査院への報告からは酷い事例が意図的に除外され、著しい不正415名についてもプライバシー問題で十分な調査が行えない。

 トランプ政権による新たな法律で行政処分や刑事犯罪が問えることになったが、商務省幹部が動くかどうかは不明で、労働組合も不正を容認している。
 これを調査する下院行政改革委員会の共和党議員はいら立ちを隠さない。「こんなひどい事例は見たことが無い。金額は水増しされ、数人が共謀している。不正取得した給与を返却すれば円満退職させるという商務省提案を労働組合は拒否。さらには比較的高給の白人職員の処分はできても、大半を占める黒人職員には難しい人種問題が絡む」と憤慨する。

トランプ政権のもと、労働行政改悪の動き

 今年もまた9月4日の労働記念日が近づいた。昨年の大統領選挙の時にトランプ候補は「当選すれば、私は米国労働者を守り、そのために戦う大統領になる」と言明したが、現実はオバマ政権が目標とした労働行政改善が逆行の方向にある。
 こうした労働行政改悪の動きはトランプ大統領令、共和党優位による議会議決、またはオバマ法制の実施延期や無視といった形で表れており、労働者の雇用や生活水準を改善するどころか、生活を脅かす状況にある。

 まず労働者の給与改善問題だが、オバマ政権は2016年12月に残業代の支払い基準を年収$23,660(週給$415)以下から$47,476(週給$913)以下に引き上げて、より多くの労働者を残業代の対象に拡大しようとしたが、現政権は地裁連邦判事の違法判決を盾に、撤廃ないし基準引き下げを企てている。
 また金融規制面では、退職基金などの取扱いに顧客利益の優先を定め高額手数料を封じた信託法も、トランプ大統領は金融機関の反対から就任15日にして1年半以上の実施延期を決めてしまった。
 連邦最低賃金については、8年前の時給$7.25を$10.20に引き上げようとするオバマ大統領令も無視された。自主的に引き上げを決めた29州とワシントンDCそして数十都市はあるが、その他の州は未だ連邦賃金に連結のままである。

 安全衛生面については、造船や建築現場で62,000名が肺病や癌の危険にさらされるベリリュームの規制法が実施延期され、200万の建設労働者が癌や腎臓病の危険を持つ結晶性シリカ(ケイ素)の規制も実施延期された。
 さらには職業安全衛生局(OSHA)に対する労働災害と疾病の報告義務と通告労働者への報復禁止法も実施延期、鉱山労働者に対する危険物や災害可能物の情報開示義務も実施延期となった。

 オバマ政権は労働法に違反する業者の連邦業務受注を禁じていたが, 共和党は「労働法違反を考慮に入れる」とする決議案を通過させて法律を骨抜きにした。労働組合結成反対工作に使われる資金の報告義務も廃止されようとしている。労働者に有利な全国労働関係委員会(NLRB)への資金は削減され、企業経営者に有利な労使関係基準オフィス(OLMS)への資金は増額される。各州が採用する“労働の権利法”―労働組合費納入と労働組合加入を従業員の自由意志とする法律―については、トランプ政権は積極的に推進の構えであり、労働組合弱体化に拍車がかかる。

 トランプ政権の予算編成では労働者に大切な医療保険制度の撤廃、職業訓練計画の縮小、通勤費補助、児童保護、住宅資金援助などが削減される。特に医療保険の撤廃と職業訓練予算の40%削減とが重なると低所得者への打撃は計り知れないものとなる。労働問題だけでなく環境(食品や空気、水の安全など)問題の規制撤廃と予算削減が提起されている。
 トランプ政権には偽善が多い。キャリアー空調会社のメキシコ移転計画にも「多額の税控除で防止し、1,400名のレイオフ計画を300名以内に抑える。メキシコからの輸入には35%の関税をかける」と公約して当選したトランプだが、現実には既に632名が解雇されている。労働記念日を機会に労働者への攻撃について今後とも注意を払って行かねばならない。

プエルト・リコで緊縮財政への抗議デモ

 米国の自治領、プエルト・リコの首都、サンファンで緊縮財政に抗議する数百名のデモがあり、米国議会が設置した監視委員会の事務所を取り囲んで抗議の声を上げた。
 プエルト・リコは長年の放漫財政により$740億の巨額赤字を抱えて債務不履行に陥っており、監視委員会はロッセロ知事に対し増税や公共料金の値上げ、公務員年金の10%カット、人員整理などを要求しているが同知事はこれを拒否、デモ隊も知事に同調した。その他官営電力会社でも24時間ストライキがあり、労働組合指導者は「今抗議の声を上げなければ、債権者たちは取り立てを厳しくするばかりだ」と語る。
 反面、監視委員会に賛成の人たちは「数百万件に及ぶ数々の汚職が明らかにされる。従来の政権が財政赤字の上に重ねた借財だ。但し犠牲者である国民の生活は尊重されるべきだ」と述べる。
 340万の人口を持つプエルト・リコでは失業率が10%を数え、10年来の不況から450,000人が米国本土に移住する状況が続いている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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