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No.447(2017/3/10)
組合員のトランプ賛同に狼狽する組合指導者

 トランプ大統領が言う弱体化した製造業の復活と経済ナショナリズムの呼びかけが労働組合員の賛同を呼んでおり、それが労組指導者を狼狽させる形で労働運動に影響を与えている。

 ニューヨーク州の化学会社の例だが、年金と医療手当引き下げを提案された労働組合が11月にストライキに入った。会社はトランプ氏側近が大株主であり、また新設の雇用協議会委員だったので、今月に至り労組は直接その側近に接触したところ、間もなく会社は提案を撤回して交渉が妥結した。
 このエピソードはトランプ旋風が労働運動を翻弄する一例だが、インフラ整備や貿易協定の改定、雇用の海外流出阻止を掲げるトランプに多くの組合員が賛同し、その動きに労組指導者が慌てている。
 この労組はアメリカ通信労組(CWA)に所属するが、600名組合員の30-40%が雇用を守るとするトランプに投票したと言われ、労組委員長も「良質の雇用を取り戻すというトランプの呼びかけに、彼はやるのではないかとの期待が膨らんでいる」と語る。
 つい最近も、サウス・カロライナ州のボーイング工場におけるトランプ演説が影響したとみられて、3,000名の労働組合結成が失敗に終わった。

 トランプ氏は1984年以降の共和党大統領の中で、労働者に最も寄り添った政策を打ち出しているが、その陰には経済問題など共和党的路線の書き換えを図るトランプ最側近、バノン主席戦略官の存在がある。
 大統領は就任直後に建設関係の労組指導者たちと会見し、インフラ整備の方針を説明して高い賛辞を受けたが、石油パイプラインの建設やTPP廃止も同様に歓迎された。
 UAW(全米自動車労組)のウイリアムス会長でさえも「北米自由貿易協定をどのように改定してアメリカの雇用を守るのか。大統領と会談したい。初めて問題提起をした彼に賛辞を贈る」と述べるほどだ。国際機械工宇宙労組(IAM)も同様に、石炭に依存する貨物鉄道労働者が石炭の重要性を堅持するとしたトランプに強い支持を示した。

 こうした労働組合の動きに批判的な進歩派グループは、「ブルーカラー労組が数千名の雇用のために魂を売っている。メキシコ移転計画の一部を撤回したキャリアー空調会社も見せかけに過ぎない」と指摘し、アメリカ教員連合組合(AFT)のウエインガーテン会長も「バノン主席戦略官などが陰に陽に労働運動の分断を企てているが、驚くことはない。政権はそれ自体の矛盾から最終的には自滅する」と述べる。
 実際問題、スパイサー報道官が言うように、トランプ氏は組合費支払いを従業員の自由意志とする“労働の権利法”の主張者であり、国レベルの“労働の権利法”と言うことになると労働組合から一斉の反撃を受ける。連邦政府契約の建設業賃金も同様で、賃金が地域の中位水準を下回らないよう定めた既定の法律に対し、その廃案提起には強い反対が起きる。
 労働長官に指名されたパツダー氏についても、その労働規制緩和の主張が実業界からは歓迎されたが、彼の経営するファスト・フードで不法移民を雇用したことに批判が集まり指名を辞退、新たにアコスタ氏が指名されたが、承認の行方は分からない。
 労働組合にも確執がある。トランプそしてパツダー労働長官に反対したCWAだが、AT&T通信会社との長引く争議をめぐっては、雇用の流出反対を言うトランプ大統領に呼応する態度をとった。

 他方、経済利害の薄い公務員労組やサービス産業の労組には新政権と共通の場がなく、新加入する組合員はアフリカ系、ヒスパニック系が多く、トランプの人種・移民政策に疎外感を強くしており、民間のサービス労組(SEIU)は反対を明確にしている。
 多くの労組指導者はまた、AFL-CIOがどう対処するのかを図りかねている。トラムカ会長は事態を慎重に見守るとしているが、インタビューでは「大統領との会見は有意義だった。TPP離脱は称賛に値する。しかし移民制限などの政策には強く反対する。是々非々で行く」と述べている。

18州でデモなどの抗議行動に厳罰の動き

 共和党優位の18の州でデモなどの抗議行動に厳罰を課する動きが顕在化している。
 東はバージニア州から西はオレゴン州に至る18州だが、ハイウエー閉鎖への罰則の強化、デモ中の覆面禁止、デモ隊との事故車運転者の免責、暴力行為を伴うデモ参加者の財産処分などがあるが、一般のデモを含め、警官の黒人射殺抗議デモ、石油パイプライン建設反対デモなども対象となる。

 共和党は最近のデモの高まりを懸念して法案を準備しているが、特に騒乱目的のデモ便乗、金銭目当て、プロの活動家を取り締まる必要があるとし、治安と交通安全の確保の必要性を強調している。
 これに強く反対する民主党は、交通妨害を犯罪とする現行法で十分であり、特に攻撃的な運転者からの参加者の安全を危惧する。
 今までのところ、この法律を通過させた州はなく、憲法違反の疑いも強いが、共和党の強い姿勢に予断は許されない。各州における主な法改正案は次の通り。

アリゾナ州)暴力行為に発展のデモ参加者の財産処分。州下院を通過、上院審議中
フロリダ州)交通妨害のデモに刑法適用。デモ参加者との交通事故に運転者を免責
アイオワ州)故意にハイウエー交通を遮断したものに最高5年の刑期
ミズーリ州)交通妨害に罰金$10,000、5年の刑罰
オレゴン州)暴力デモ参加の学生に退学
テネシー州)デモ参加者との交通事故に運転者を免責
など。

 2月27日にはトランプ大統領がFOXニュースのインタビューに答えて矛先をオバマ元大統領に向け、「私に対する抗議活動の背後にはオバマがいる。それは今後も続くだろう」と言明した。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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