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No.442(2017/3/2)
トランプ関税の自動車産業への衝撃

 メキシコ製自動車への関税問題に直面して、米国自動車各社は値上げをするか、企業内で吸収するか、メキシコ車販売を中止するか、消費者を失うのか、米国に生産を戻して利益を諦めるか、の苦しい選択を余儀なくされている。

 1月24日、大統領はデトロイト3社トップとの朝食会を持ったが、その直前のツィッターで「米国で販売される車には新工場の建設が望まれる。生産を国外移転する会社には可成りの国境税を考えているが、国内生産の会社には優遇税制を約束する」と書いた。
 朝食会の後、フォードのフィールズCEOは「新政権と協同して税制、金融緩和、通商に製造ルネッサンスを起こしてゆくこと、産業界は刺激を受けていると思う」と語った。
 しかし、自動車業界にはリセッション時に閉鎖した13工場を再開する動きはなく、新車販売が鈍化している現在、尚更その機運はない。
 3社は現在米国に27工場、メキシコに7工場を操業しているが、最近ではGMが2008年にメキシコ工場を開設、同年オハイオとウイスコンシン、ジョージア州の組立工場を閉鎖している。

 メキシコは過去20年、安価な労働力と各国と結んだ自由貿易協定により米自動車業界にはオアシス的存在であった。時給$58の米国と$8のメキシコとでは、小型車の米国生産は無理であり、2015年には$505億の車と$51億の自動車部品が米国に輸入された。
 今後については、メキシコ自動車業界が2023年までに49%増の550万台に成長、米国は13%増の1,420万台に成長と見られていたが、トランプの国境税35%創設で見込みが変わる。
 しかし業界の計画策定は長年を必要とし、変更には多額資金の犠牲を伴う。例えばアウディだが、今開設したメキシコ工場は5年前に計画を始めたもので、早急に変更できるものではない。フォルクスワーゲン、GM、トヨタ、BMWは米国への多額の投資を強調しながら、メキシコ投資は変更しないと述べている。

 国境税で特に大きな被害を受けるメーカーに米国販売の32%を輸入するVWがある。それに対しホンダは11%であり、メキシコからインディアナ州へのCR-Vの生産移転でパーセンテージは更に減りそうである。
 フォードは1月早々に、FOCUS生産のメキシコ工場への$16億投資計画を中止し、ミシガン州の電気自動運転車に$7億を投資すると発表した。理由はトランプ関税ではなく、小型車販売の鈍化だと説明しているが、企業減税や優遇税制も視野に入れているように見える。FIATクライスラーは税額によってはメキシコ投資を諦めるとしている。
 トランプ関税は議会承認なしには実行できないが、輸入品目や車種、部品分類の設定によっては特定メーカーに大きな打撃を与える可能性がある。

 メーカーはメキシコ車販売を止めることもできるが、消費者離れの問題が出る。他の外国への転売の可能性もある。メキシコはEUや日本、南アフリカなど45ヶ国と自由貿易協定を結んでいるが、米国は20ヶ国である。
 メキシコ最大の日産自動車は、2015年に同国で823,000台を生産したが、46%を米国、17%をカナダ、サウジなどに輸出した。ゴーン同社CEOは「メーカーは新規則が出来れば、それに適合させる」と語る。
 トランプ関税は小売価格の値上げに繋がるが、$17,000のSENTRA、$21,000のシボレー・TRAXへも数千ドルの値上げとなる。米国生産のトヨタCAMRYにしても部品の25%が輸入であり、$1,000の原価高となる。値上げ無しでは企業採算が圧迫される。

 テキサス州のITに働くブランチャードさん(31歳)だが、2007年にSENTRAを$18,000で購入した。当時メキシコ製かどうかは考えもしなかったと言う。「部品は世界各地から来る。日本車もここで作られている。自動車は国際的に相互依存しており、フォードを買うのが愛国的だとは言えない」と言う。しかし35%関税でSENTRAは$6,300の値上げになる。「選挙の後、NAFTAについてもっと考えるようになった。安いメキシコ・コカ・コーラとも見納めかも」と笑う。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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