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No.434(2017/1/23)
カンボジア、最低賃金制度の拡大へ
カンボジア労働職業訓練省

 カンボジアでは、この1月より、最低賃金(月額)が昨年より約9.3%、13米ドル 引き上げられ、153米ドルとなった。5年前(2012年)の83米ドルに比べると、八割を超える大幅な上昇である。同国では、この間、最低賃金の引上げが労働紛争の最大の課題であり、これに政治面での与野党の厳しい対立とそれぞれを支持する労働組合の動きが加わり、深刻な社会的課題となってきた。経済界には、これ以上の急激な引き上げは、同国の経済を支える縫製産業の国際競争力に打撃を与えるとの懸念が強まっている。また、現状のままでは、2018年7月に想定される次の総選挙(国民議会選挙)の政治的争点となる恐れを指摘する声もある。

 カンボジア政府は、これらの情勢のなかで、昨年秋、最低賃金制度について、対象の拡大とプロセスの明確化を行う方向を打ち出した。対象については、これまで、主力産業である繊維・製靴部門のみを扱っていたものを、他の製造業やサービス業に拡大し、さらにすべての産業における一般的な最低賃金制度とする方向である。同時に、最低賃金の引き上げについてのプロセスを法律で詳細に定めて労働紛争を予防しようとする姿勢が注目される。

 昨年の11月28日に、政府の審議会で労働職業訓練省の原案が提示された。政府側は、今後の労使各側の検討、審議会での論議を通じて、本年中の成立をめざしている。関係者によれば、今後の労使の大きな論点の一つは、最低賃金引上げのプロセスにあるといわれる。政府案では、最低賃金の引上げ額は、いくつかの指標に基づき三者構成の審議会で確認されるが、審議への不当な圧力や決定後に反対を扇動する行為は違法として罰せられる。使用者側は、労働紛争の予防への効果を期待するが、労働側には労働組合の正当な関与を制限するものとの強い反発の声がある。

 カンボジアの最低賃金制度は、1993年に新生カンボジアが誕生したのち、1997年に制定された労働法に基づき運用されてきた。その額は、当初は40米ドルでスタートしたが、その後は上昇が続き、今年は前述のとおり153米ドルとほぼ四倍となった。しかし、今日、物価の上昇もあり、また、工場労働者の賃金は最低賃金に張り付くことも多いことから、労働者と家族の生活には厳しいものがある。使用者団体のある幹部は、「個人的にはカンボジアの労働者の生活をもっと良くしてやりたい。しかし、外資に撤退されては元も子もない」と胸の内を語っていた。

 カンボジアでは、最低賃金のほかにも労働法制をめぐる新しい動きがある。昨年5月には、はじめての「労働組合法」が制定され、労働組合の権利と運営が詳しく規定された。しかし、そのなかに、労働組合の組織運営に関する厳しいルールが盛り込まれていることから、いくつかの労働組合はILO(国際労働機関)に提訴しており、今年3月にILO本部で審議される見通しである。また、政府は、労働法制の根幹である1997年労働法についても、社会の変化に対応した見直しを行うことを示唆している。

 カンボジアでは、新生国家の誕生以来、人民党(共産党)が政権政党として国政をリードしてきたが、2013年に行われた前回総選挙では、野党第一党の救国党(旧民主党など)が善戦して注目された。同国では、労働組合が与党系、野党系に分立していることから、来年の総選挙では労働問題が争点となることは十分想定される。その意味で、昨年から検討がすすめられている労働法制の基本的な見直しについて、今年のうちに、労使そして国民的な合意を得ことができるかが問われるものといえよう(了)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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