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No.422(2016/10/25)
フィリピンの新大統領、非正規労働の改善に動く

 フィリピンでは、今年5月の選挙で、南部・ミンダナオ島のダバオ市長を勤めたロドリゴ・ドゥテルテ氏が、他の有力な候補を押さえて第16代大統領に当選した。その施策については、1000名以上の容疑者が射殺されたといわれる麻薬対策や、東アジアサミットでの米国大統領への発言などが国際的なニュースとなっている。このため、内政面でも強引な新自由主義的政策を懸念する声があったのだが、現時点ではその方向は見せていない。中国寄りとされる外交姿勢も、国内的には観光や農業など同国への依存度の高い産業界からはむしろ歓迎されている。そして、世間を驚かせたものは、同国でこの間、社会問題となっている雇用の有期化(contractualization)について「来年中に解決する」と表明したことである。

 フィリピンは、2004年以降、6%程度のGDP(国内総生産)の成長が続くなど(「リーマンショック」の年を除く)、経済はかつての停滞を脱し活況も見せているが、社会的な格差の拡大には著しいものがある。雇用の面では、短期の契約労働者の増大と雇い止めが深刻な問題となっている。法に抵触しない5月間の雇用の反復(現地では“5-5-5”とも言われている)が横行し労働者の生活を脅かしている。フィリピン労働組合会議(TUCP)によれば、今日では、全国6700万人強の労働者のうち約3500万人が短期の契約で働いている。短期契約の反復では、日本と同様に、同じ会社で長期にわたり仕事をしても、低賃金となりボーナスや退職金の支払いもない。

 フィリピンの短期の契約労働は、当初は、セキュリティ関係の業務などが中心であったが、今日では、はば広い職種にみられる。例えば、成長産業の一つで全国展開のすすむスーパーマーケットでは、多くの社員が短期の契約に置き換えられたうえ、雇い止めが状態化している。日系企業も例外ではない。ミンダナオ島にある製造業の現地工場では、労働者の大半が派遣労働者となったことに対して、労働組合が結成されて争議が発生し、操業中止に追い込まれている。労働法では試用期間としての6ヶ月以内の契約は認められるが、労働者の就業の権利を妨げる目的の有期雇用は判例で違法とされている。こうしたルールをすり抜けようとする脱法的な雇用が増大しているのである。

 これに対して、ドゥテルテ新大統領は、「このような雇用は今年中に半減、来年中にゼロにする」という方針を示した。産業界は、「労働法を遵守する」との声明を出しつつ今後の施策を見守る姿勢である。労働団体は、大統領選で別候補を支援したこともあり、当初は戸惑いも見られたが、現在では大統領の方針を支持する方向である。最近では、マニラの雇用労働省の周りに労働者が集まり、大統領を支持して気勢を上げる異例の事態となっている。一方では、大統領の発言は有期雇用の否定にも結びつきかねないことから、セキュリティなどで働く従来からの契約労働者等の雇用を脅かさないよう、問題の本質を捉えた対応を求める声もある。

 フィリピンにおける雇用の非正規化は、この間、根深く進行してきた。雇用契約の短期化の問題だけではなく、米国などからの受注による英語のコールセンターの臨時型雇用にも厳しい目が向けられている。新大統領が今回の方針で契約労働や派遣労働の改善をすすめたのち、労働法の本格的な改正にまで踏み込むのかは未知数であるが、同国の労働の将来にかかわるものとして注目を集めている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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