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No.410(2016/9/1)
米国の労働運動はなぜ弱体化したのか?

 米国の労働運動はなぜ弱体化したのか?
 グローバル化がその原因とする見方もあるが、欧州諸国の組織率は高く、特にスカンジナビア諸国は70%近い。隣国のカナダでさえ20%以上を維持している。これらの国がグローバル化から取り残されているわけでは当然なく、グローバリゼーションが労働組合弱体化の主要因とは必ずしも言えない。また、多くの国で組合員がそれほど減少しないでサービス産業に移動しているところをみると、製造業の衰退によるものでもない。
 しかも、昨年のギャロップ調査では米国民の58%が労働組合を支持すると回答した。1936年に調査が始まって以降、支持率が50%を切ったのは2009年の大不況の時だけであり、一般的に見て組合支持は落ちていない。
 しかしながら、今回の大統領選挙では、共和党トランプ候補、民主党クリントン候補ともに、雇用政策の必要性を主張するものの、「組合員の雇用を増やす。団体交渉に守られた仕事を取り戻す」とは言わない。そうした主張が有権者の共感を呼ばないと知っているからだ。

 マッギル大学社会学部のバリー・エイドリン准教授は、労働組合が広く労働者階級全般のために働く必要と政党支持の在り方について論じている。
 米国には歴史的に強力で独立した左翼政党が存在しなかった。諸外国では労働者を守ろうとする人たちが自分の職場の組合だけでなく、労働者階級を守る労働党ないし社会党を結成した。これら政党は労働者の抗議活動の高まりを受けて自分の政権、ないしは対立政権をして労働者保護の法律を成立させた。民主主義市民の当然の権利として、健康保険や老齢年金などの社会福祉制度を実現させ、労働者の権利を民主主義の網目にしっかりと組み込んで不動のものとした。
 米国ではこれが出来ていない。労働者は数十年にわたり労働権を求めて苦闘し、政治にも参加した。19世紀末ないし20世紀初頭にこの種の政党が出現して一定の地位を占めたこともあったが、1930年にその動きが止まった。ルーズベルト大統領は高まる労働者や農民の抗議活動に応えて彼らを民主党に組み込み、全国労働関係法を成立させて彼らを納得させた。しかしこれは労働組合を一般労働者と分断させる結果となった。労働組合の自由主義派が現在の民主党を形成したのだが、それは左翼主義への選択の芽を摘むことになった。
 当時の労働情勢は米国が良好に思えたが、ルーズベルトのニューディール連合は結果的に不毛の結婚に終わり、労働組合は民主党内の少数派として仲間同士に改革を呼びかける特定利害集団のものとなった。
 他方、カナダは1930年まで自由党と保守党が主流にあり労働者や農民の抗議に対しては改革や抑圧の諸刃で対応していたが、労働組合が支持した野党は“協同連邦連合”を結成してそれが現在の新民主党(NDP)になった。
 カナダの労働組合は選挙への組合員動員の力で団体交渉力も強める結果を示し、この力を持って産業平和、労使間の平和を実現した。こうして組合反対派さえも産業平和の重要性を理解することになり、その結果労働法の改定も進み強化されてきた。
 反対に当時の米国では、労働組合は組織率を高めたものの衰退が始まっていた。組合の中の保守派はタフト・ハートレー法を使って優秀なオルグたちを追放し、組合員の動員力も弱めた。労働法の面では、産業平和ではなく、組合の団体交渉力の矛先を強大化する使用者の言論の自由、財産権の行使に対抗させる方向に向けた。その結果、労働組合の政治的デモ活動は制限され、労働の権利法(組合費納入と組合加入を従業員の自由意志とする法律)が各地で成立して労働組合の連帯が弱まり、衰退が始まった。

 これからどうなるのかの答えは容易でない。最近の最賃15ドル運動やベライゾン社でのストライキには強力な組合員動員力の復活がみられる。また、バーニー・サンダース候補への予期せぬ支持の高まりに活発な階級政治への未来も感じられる。しかし、労働組合のサンダース候補に対する微温な反応は組合が内部の特別利害に強く拘束されていることを示すものであり、拘束から抜けだすには大きな挑戦が要る。
 まずは今年の選挙である。トランプ勝利で上院も共和党優位が続くことになると、労働組合は上院、下院、司法という3面から共和党の攻撃を受ける。しかしクリントンが勝ち、民主党優位の議会が実現すれば、最近の幾つかの勝利に加えて、大きな転機が訪れることになる。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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