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No.379(2016/2/24)
中国の「農民工市民化」の動向

 2月8日、中国は、旧暦の新年(春節)を迎えた。中国政府によれば、この期間に移動する人々の数は延べ約29億人といわれ、その中には大都市や工場等で働く「農民工」と呼ばれる多くの労働者が含まれる。この時期には、北京、天津、上海、広州などの大都会が閑散とするほどの大移動である。地方の農村では、久し振りに帰村した夫、息子や娘を囲み、仕事や都会の状況の話に花が咲き、年越しの人気TV番組「春晩」(日本の「紅白歌合戦」に相当)などを見ながら団欒のひと時を過ごすところもあるいう。
 さて、現代中国での最大の労働問題の一つは、地方の農民による都市部での就労、すなわち「農民工」の問題である。今日、大都会や近郊の工場、建設現場などで、その数は、2億5000万人を上回るといわれる。しかし、労働条件や社会サービスのレベルが低いことへの不満が高まり、大きな社会問題となってきた。農民は、都市での就労を続けても都市戸籍の転換が認められず、都市住民と同等の社会サービスを受けることができない。また、より若い「新世代農民工」は都市部の学校を出たまま工場等に就労する労働者も多く、社会保障など都市での生活基盤に大きな不安があるという。
 中国政府は、「農民工」の生活環境の改善に向けて、これまでにもいくつかのビジョンや政策を打ち出してきた。2014年には、内陸部の地方都市を開発し、「農民工」の定住を受け入れ、社会サービスを提供する新しい方向を示している(新型都市計画・「城鎮化」といわれる)。そして、今年スタートした「第13次5カ年計画(2016~2020年)」では、目標とする「小康社会の全面的完成」の具体的ターゲットとして、一人当たりGDPの倍増(対2010年比)とともに、「農民工の市民化」が含まれることとなった。
 2月1日、春節を前にして、北京で「全国優秀農民工表彰大会」が開催された。李克強首相は、全国から集められた約1000人の「優秀農民工」を前に、次のように述べた。「『農民工』は、中国の近代化と経済社会の開発に多大な貢献をした。第13次5カ年計画では、人民を中核とする『城鎮化』(新型地方都市計画)、農民工の「新市民」化、熟練労働者化などを推進する。この計画の期間の中で、皆さんには、中国に豊かな社会を実現する新しい市民として貢献してほしい」。
 ところで、中国政府による「農民工市民化」の展開については、内陸の中規模都市での対応が想定されていることから、今後の紆余曲折を予想する声も少なくない。まず、現に大都市で生活している「農民工」の就労・生活環境改善の問題がある。また、「城鎮化」については、受け入れコストの増大に対する地方政府の反発も考えられる。そして、「農民工」自身が、上海、天津といった東部の大都会での就労への希望が強いという実情もある。いずれにしても、今春、2020年に向けた新しい計画が始動する。「農民工」を「小康社会」に相応しい「新市民」にどう転換していくか、その手だてと道筋が問われることになろう。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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