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No.378(2016/2/19)
パレスチナ・ヨルダンの労働事情

 2015年12月4日に開かれた中東・アフリカ北部チームの労働事情を聴く会より、パレスチナ、ヨルダンの労働事情を報告する。

【パレスチナの労働事情】

 パレスチナの労働組合運動は、常に政治的な影響を大きく受けてきた。労働組合は常にイスラエル当局による嫌がらせを受けており、組合員は、常に逮捕の危険がつきまとっている。このような環境下にあっても我々は、労働者を守り、労働者のための法律を実現するために大きな役割を果たしてきた。
 しかしながら、我々は現在、困難な現実に直面し、労働者は深刻な権利の侵害にさらされている。パレスチナの使用者は法を守っていないため、労働関係法の改革、革新が必要である。PGFTUの調査では、多数の労働災害も報告されており、残念なことに死亡に至るケースもあった。
 パレスチナ労働組合総連盟(PGFTU)は、常にパレスチナの労働者の問題に対して責任を果たしてきた。労働者のための画期的なキャンペーンを展開してきた。中でも重要で大きな成果は、最低賃金法を制定させたことである。PGFTUはこの闘争の中で大きな役割を果たした。また、労働災害に対しては、労働安全衛生法の適用や、女性の地位向上にも大きな役割を果たしてきた。通常、アラブ世界では女性局が設置されているが、パレスチナではそれを一歩進めてジェンダー局と命名している。
 ここで触れておきたいのは、いわゆるグリーンライン(※)内、1948年以前のパレスチナ、イスラエルでつくられたグリーンライン内で働く労働者たちの状況についてである。そこで働く労働者は、4つのグループに分けることができる。
 最初のグループは、イスラエル労働省から正式の許可を得て働いている労働者、この労働者は組織化されているためフォローアップが可能である。労働許可を得るためには、イスラエル側の使用者が必要とする労働者数をパレスチナ側の仲介者に伝え、パレスチナ側の仲介者が必要とする人数を集めてくる。その後、イスラエル側の使用者は身元調査を行い、イスラエル労働省から許可が下りることになる。したがって、パレスチナの労働者は、イスラエルの政府とは直接接触しない。
 労働許可を持つ労働者は、朝2時頃起きて、パレスチナ自治区からバスや車でイスラエルの検問所に行き検査を受ける。この検査に比べれば、各国が行っている出入国検査ははるかに楽である。イスラエルの検問所では、弁当以外の持ち込みは一切できない。そこからイスラエル側の車に乗って職場に向かう。イスラエルの使用者は、コスト負担を減らすため、労働者を26日間労働させても保険は18日分で済ませてしまうということもある。
 第2のグループは、一人の商人、商業経営者として特別許可を得る。あるいは、仲介人を通して、商人としての特別許可を得て働く労働者である。これらの労働者は、何の権利も無く、残業手当、健康保険、労働災害保険も無い。
 第3のグループは、さらに深刻な問題を抱えており、我々PGFTUだけではなくパレスチナ全体で考える必要がある。それは、許可無しにグリーンライン内に入って労働する人々であり、この数が相当数にのぼる。こうした人々は、山の中で寒さに耐えながらビニールに身を包んで木の下で寝ることを強いられる。見つかれば、逮捕される場合もある。
 第4のグループは、入植地で働いている人々である。入植地はヨルダン川西岸地区の中の町と町の間に建設されているが、入植地で働く場合は、パレスチナ側の法律もイスラエル側の法律も適用されない状態のもとに置かれている。
 パレスチナでは、国内の法律が不十分であり労働者の支えになり得ていない。最低賃金法もきちんと適用されていないのが現実である。月額400ドル(約4万5416円)の最低賃金が定められているが、保育園や縫製工場の労働者は、最低賃金に満たない賃金しか支払われていないのが実態であり、監督も不十分である。

※1949年1月に第一次アラブ・イスラエル戦争終結の休戦条約が結ばれ、それによりイスラエルは分割地域を40パーセント以上増やした。これが1967年前の境界線、グリーンラインとして知られるようになった。(駐日パレスチナ常駐総代表部HP)

*1ドル=113.54円(2016年2月17日現在)

【ヨルダンの労働事情】

 ヨルダン労働組合総連合会(GFJTU)が抱える現在の課題は、雇用機会の不足、今なお高い失業率、低い賃金、さらには労働組合の結成や団体交渉の権利が制限され、労働者の基本的権利が侵害され、労働者に対する社会的な保護が不十分であることが挙げられる。
 ヨルダンの全ての労働者に必要なことは、ディーセント・ワークを適用し、公共部門、民営部門両方の賃金水準を見直し、さらには最低賃金を見直し、社会保障を適用拡大することに加え、ヨルダン人以外の労働者も含めて労働組合を結成できるよう、労働法を改正することである。労働法の中でも、労働紛争の定義、概念、そして労働紛争解決のメカニズム、仕組みにかかわる条項の改正と労働省の監督の有効性を高めていくための改正が必要である。
 ヨルダンは地理的に様々な紛争地域のど真ん中に位置している。西側には占領下のパレスチナ、北にはシリア、東にはイラク、南はサウジアラビアである。ヨルダンはこうした地理的な要素のためいや応なしに難民が流入してくる。こうした状況は、1990年代の湾岸戦争の時から始まっている。ヨルダンの人口は680万人ほどであるが、イラク人は50万人以上、シリア人は現在150万人が難を逃れるためヨルダンに来ている。1991年の湾岸戦争の際には、クウェートで働いていたヨルダン人、パレスチナ人の50万人がヨルダンに戻ってきた。また、ヨルダンには、エジプト人も55万人いる。そのほかの国籍の人々も80万人いる。
 こうした難民のほとんどはアラブ人であるため、私たちは彼らを外国人と言わない。難民として来ている外国籍の人たちは、3つの重要な権利がある。それは、ヨルダンにおいて居住する権利、彼らが希望した場合は第三国へ出国する権利、そして最後に本国に帰る権利である。また、彼らが我が国で仕事をする場合は、国民の労働者の権利を守る観点から、働ける職種を14指定している。ただ、多くの外国人労働者が非正規部門で働いている。
 それぞれの国民性によって違いがあるが、シリア人は全般的に手に技術を持ち、しかも仕事が上手であるため、工業部門、民間の小さな工場で需要がある。ヨルダンは国際機関の指導もあり、シリア人を半永久的に定着させるキャンプをつくっている。このためには、仕事を持つことが重要であり、仕事も含めて計画している。イラク人は、自分たちで起業して生活しようとする傾向が強い。
 世界でも最大の難民受け入れ国であるヨルダンを、大切にしていただきたい。ヨルダンは天然資源に恵まれず、水資源も無い中で、こうした状況にあるということを理解していただきたい。
 ヨルダンは、こうした人口の変化などによるマイナス面も影響し、大きな経済的負担を強いられ300億ドル(約340億6200万円)の負債を抱えている。ヨルダン政府は、GDPの80%を借金返済のために使っている。こうした状況は国際基準からすれば、ヨルダン政府は破産したと言われてもいいレベルである。こうした厳しい状況の中では、海外から投資する可能性は極めて限られている。このように様々な影響を受けながらも、ヨルダンは政治的に安定を保っている。
 このようにヨルダンは、経済的、社会的、政治的に非常に困難な状況に置かれているが、ヨルダンの労働組合としては、労働者の抑制された権利を改善していく必要がある。同時に、これまでに獲得してきた成果を守ることも大きな課題である。

*1ドル=113.54円(2016年2月17日現在)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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