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No.375(2016/2/4)
UAWとデトロイト3社、労働協約成立までの曲折

 UAWとデトロイト3社の労働協約が、組合員から承認されて、自動車産業に新たな歴史が始まった。
 UAWは、リーマンショック後の米自動車各社リセッションを乗り切るのに、労働組合も協力したとして、今回はより有利な協約を要求した。フィアット・クライスラー(FCA)が9月に提示した最初の協約案は、組合員に否決されたが、その後条件を引き上げたことで、今回の妥結にこぎ付けた。米自動車大手3社のうち、2009年の財政破綻を唯一免れたフォードに対しては、さらに有利な条件が期待されていた。
 今回の協約交渉では、10年間の賃金凍結が解除されて、大幅な賃金労働条件の改善が図られたが、交渉時の労働者には「今賃上げがなければ、チャンスは2度と来ない」という雰囲気があり、2007年に導入された、新人とベテラン組合員との二重格差に、強い拒否反応を示していた。
 FCAとの交渉では、会社もそのギャップ軽減のために、UAWと度々の協議を重ね.二重賃金は残しながらも格差を縮めることに合意した。内容は16ドル(約1900円)―19ドル(約2257円)の新人の賃金を、4年間で25ドル(約2970円)に引き上げる。しかし、29ドル(約3445円)のベテラン賃金との格差は残すというものであった。
 しかし、同社オハイオ州ジープ工場におけるUAW説明会では、組合員から「UAWは、我々と会社のどちらの味方なのか」とする厳しい発言が飛びだす中で、工場4800人の87%が反対.会社全体では3万7000人の65%が反対した。交渉は根底から見直しを迫られることになり.その後のフォード、GMとの交渉にも変換をもたらした。
 最終的には、3社とも新人賃金を、8年間でベテランレベルに引き上げることになったが、ボーナスや諸手当を含めた賃上げ内容は、フォードが最高、それにGM、FCAとなる。その結果、労働コストは4年間でフォードが5%、GM 9%、FCA19%の上昇が予測されるが、新人賃金上昇の要因が大きい。
 生産面では、小型車種などのメキシコへの移転、そして高額・利益車種の米国生産という図式が定着することになるが、大幅賃上げに合意できたことは、3社の体質改善の証明でもあり、販売台数の上昇と価格引き上げが続けば、国内生産を維持しながらコストを吸収できる可能性も強まったといえる。
 しかし、一旦合意された協約が多くの反対に遭遇し、フォードでも承認されたとはいえ、批准が51%の低率に終わったことは、UAW指導部にとって大きな衝撃であり、ウィリアムズ会長はPR会社と契約し、ウェブサイトやフェイスブックを通じて、より密接に組合員の声を吸収するなど、コミュニケーションの改善を図ることにした。反対には、新人だけでなく、多くの熟練工の存在もあったことがうかがわれる。
 他方、ある経済専門家は「自動車産業は、かつて米国に中産階級を誕生させる上で中核的な役割を果たした。長年の賃下げ傾向が続いた中で.今回の合意は、その役割復活につながる可能性を持つ」として高く評価している。

*1ドル=118.78円(2016年1月28日現在)

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メルマガNo.356(http://www.jilaf.or.jp/mbn/2015/356.html

ウォルマートは雇用を創出するのか.流出するのか

 賃金が低すぎるといわれてきたウォルマートは、昨年全従業員130万人のうち50万人を対象とする賃金引上げを発表し、関係者を驚かせたが、今度は世界で369店舗(うち米国は154店舗)の閉鎖を発表し、1月~2月に米国内の小型店舗が閉鎖される見通しとなった。
 米NPOの経済政策研究所(EPI)は、米国最大の小売業ウォルマートが行った2001年―2014年の中国からの輸入によって、40万人の米国雇用を喪失させ、中国との貿易赤字を15.3%拡大させたと発表し「中国の意図的な低廉労働と補助金政策による米国輸出を手助けして、中国の労働権侵害と不公正競争を助長させた」と述べた。
 これに対し同社は、ボストン・コンサルティング・グループの報告を引用して「ウォルマートは計画を50億ドル(約5939億円)上積みし、2023年までに2500億ドル(約29兆6950円)の米国製品を購入する計画であり、直接雇用25万人を含めて米国雇用を100万人増加させる」と反論した。
 しかし、EPIは「ウォルマートは更に中国輸入を増やす方針であり“メイド・イン・アメリカ”の同社方針とは反対に、中国製品が凌駕するようになる」と警告した。
 EPIは、ウォルマート労働者の組織化を進めている全米食品商業労働組合(UFCW)などの支援を受ける機関である。

*1ドル=118.78円(2016年1月28日現在)

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メルマガNo.308(http://www.jilaf.or.jp/mbn/2015/308.html
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有給育児休暇が地方自治体にも徐々に拡大

 米国で、育児休暇制度の改善が進んでいる。
 昨年、オバマ大統領は連邦政府各省庁に対し6週間の有給育児休暇実施の行政命令を発令したが、同時に各州や都市にもその実施を求めた。その際、大統領は「先進国の中で米国だけが有給病気休暇がなく、有給産休がない国だ」とも述べ、多くの地方自治体、そして民間企業における制度改善を訴えた。
 その結果、ネット通販のアマゾン・ドット・コム、ソフトウエアのマイクロソフト、コンサルティングのアクセンチュア、動画配信のネットフリックスなどの民間大手企業がこぞって制度の拡充にのり出した。しかし大半の地方政府では、財政難などから動きが進んでいないが、ピッツバーグやカンサス・シティ、オースティン、ニューヨーク市など数都市が実施を決めている。
 ニューヨーク市では、非組合員2万人の中で新生児を持つ母親と父親、養子を持った両親が6週間の有給育児休暇を受けるが、財政上の理由で通常の有給休暇2日分を返上し、2016年賃上げ分の一部が削減される。他方、労働組合員30万人については労使交渉により決定されることになっている。その他、シカゴでは通常出産の際に4週間、帝王切開では6週間の育児休暇、ボストン市でも6週間の有給育児休暇を設定するが、最初の2週間は100%、次の2週間は75%.最後の2週間は50%の有給となる。またサンフランシスコ市では、病気休暇取得後に12週間の育児休暇がある。
 州の段階ではカリフォルニア州など3州が6週間だが、18の州が導入検討中で、最高はワシントンDCの16週間完全有給がある。

カナダ自由党政府が労働組合規制撤廃の方向へ

 カナダでは昨年まで新保守党政権が10年間続き、その間労働組合に対する規制の動きが強まり、労働組合結成を難しくする法律や、労働組合会計について詳細な申告を要求する法案が成立していたが、こうした法案撤廃を公約にしていた自由党の政権が成立し、労働組合に対する規制撤廃の動きが加速している。
 その最初の動きとして、新政府はC―377と呼ばれる労働組合会計の開示義務法案を廃案にする方針をプレスレリースで言明した。法案は5000カナダドル(約42万900円)以上の支出の明記と、10万カナダドル(約841万円)以上の収入の幹部クラスが詳細な税申告を行うことを義務付けたが、監査には巨額の政府支出も必要とされ、ウェブサイトへも掲載されることから、労働組合だけでなく警察関係、弁護士協会それに7つの州からも反対の声があがっていた。
 自由党政府は「労働組合会計については、組合員への情報開示を義務付ける連邦労働法および各州の労働法があり、それ以上の規制は必要がない」と言明したが、進歩保守等は「現行法がうまく機能しないからこの法案が必要なのだ。自由党政府は、総選挙で労働組合の支援を受けた見返りに今回の決定をした。議会審議を通じて阻止する」と表明している。

*1カナダドル=84.18円(2016年1月28日現在)

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発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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