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No.366(2015/12/22)
韓国の労働事情

 2015年10月15日に行われた再招聘チームの労働事情を聴く会から、韓国労働組合総連盟(FKTU)の労働事情について報告する。

【労使政大妥協をめぐる争議と合意について】
 パク・クネ政権は、韓国経済を飛躍させるためには公正で柔軟な労働市場改革が必要であるとして、労使政委員会で労働市場改革に関する論議を、2014年8月にスタートさせた。この論議の主な論点は5つあった。1番目が、労働市場の二重構造の問題の解決。2番目が、賃金や労働時間の問題、定年の問題の解決。3番目が、公労使のパートナーシップを構築。4番目がセーフティーネットの整備。5番目が、その他の構造的な問題の改善である。
 この中で最も重要な論議は、1番目の労働市場の二重構造の問題である。この論議が始まってすぐに政府は、一方的に、構造改善案を発表した。政府案の1点目が、非正規労働者の使用期間の延長及び派遣労働の対象の拡大である。2つ目が、労働時間の規制、3つ目が、定年の延長と賃金ピーク制の連動の義務化である。4つ目が賃金体系の改編、5つ目が、一般解雇(低成果者や勤務不良者の解雇)及び就業規則の不利益変更の要件を緩和するという内容であった。
 政府案が一方的に出されたことも問題であるが、中でも、5点目の一般解雇及び就業規則の不利益変更の要件を緩和するために行政が介入するということに、FKTUは絶対に反対であった。解雇については、法で正当な理由なく労働者を解雇することができないとされており、就業規則を変更する場合も労働組合の過半数の同意が必要である。この現行のルールを緩和しようするものである。
 FKTUは、政府案は非正規職を広め、政府の質の低い雇用政策では青年雇用問題を解決できないとして決裂を宣言し、2015年4月に労使政委員会から脱退した。その後5月には、大規模集会で政府を糾弾し、7月にはゼネストも行い、47日間にわたる座り込みとデモによる反対闘争を展開した。
 しかし、政府の一方的な推進計画をそのままにしておくと、政府案通りに決まる危険性があったため、FKTUはやむを得ないとの判断で労使政委員会に復帰(8月)した。FKTU内部には、労使政委員会への復帰に反対する労働組合もあった。FKTUは、こうした復帰に反対する組合員の声も意識しつつ委員会への議論に臨むこととなった。
 労使政委員会は9月6日に議論が再開され、9月13日に大妥協が合意された。FKTUは、翌14日、この合意案をもとに議論し大妥協案を承認した。この案には、金属労連、化学労連、公共労連の猛反対があったが、最終的には承認に同意をすることとなった。金属労連と化学労連の猛反対は、賃金ピーク制(延長した定年までの雇用保障と一定年齢からの賃金カット)が、ブルーカラーの労働者たちをターゲットにしていたためである。
 9月15日、FKTUをはじめ労使政委員会の代表は大妥協案に調印した。国会と政府は、この妥協案に合わせて立法化し、ガイドラインを作成する作業に入ることになるが、賃金ピーク制等の労働条件(労使自治)に関わる部分は、労使による団体交渉に委ねられる。
 労使政大妥協の主な内容と意義については、次のように考えている。1つ目、若年層の雇用の拡大に努力するとの合意が成立した。これは全ての世代が、ともに働ける状態を支援しようということである。賃金ピーク制を導入することで、中高年層の雇用保障のみでなく、人件費の負担減から企業は新規雇用も生み出すと見られている。韓国では、名誉退職(実際には解雇に近い)という雇用慣行があり、定年前の50歳位で後進に道を譲り辞めるが、その後の再就職は困難で生活に支障をきたす場合も少なくない。
 2つ目、非正規労働者の格差の解消に関しては、共同で実態調査・議論を行い、立法化させることで合意を見た。3つ目、労働時間の死角地帯の解消のために、5人未満の事業所など適用除外の事業所に対する改善法案をつくることで合意した。
 一般解雇の指針、就業規則の変更については、政府が一方的な実施しないように、制度発展委員会を設置することになった。
 労働時間については。時間外労働と休日労働を含めて現行(法)は週68時間まで働くことが可能であるが、これを週52時間に短縮することとなった。また、賃金制度についても変えていくことで合意した。現行の賃金制度は、号俸制で勤続年数が長くなれば賃金も上がっていくという形から、成果型の賃金制度に変えていくこととなった。次に、非正規雇用に関して、期間制労働者の契約期間を現行の2年(2年超は、期間の定めのない労働者とみなされる)から4年に延長することについては、協議を継続していくことで合意した。
 一般解雇、就業規則の不利益変更については、中長期的な話し合いを続けていくこととなった。
 今回の労使政大妥協の結果は、結果的には、最悪の状態を防ぎ、この時点における最善の策であったと考えている。現時点においては、政府の一方的な施策を阻止することができたと考えるし、これからも社会的に議論を広げていくことができるという点で意義があったと考えている。

過去の関連記事.
メルマガNo.325(http://www.jilaf.or.jp/mbn/2015/325.html
メルマガNo.301(http://www.jilaf.or.jp/mbn/2015/301.html

韓国「感情労働」従事者保護規定へ

 日本の改正安全衛生法が、12月1日から施工され、従業員のストレス対策を経営者に義務付けることになった。韓国では、産業安全保健法を改正して、「感情労働」に従事する労働者を守るために規制をかける論議が始まり、政府は、環境労働委員会に改正案をすでに提出している。
 感情労働は、近年肉体労働、頭脳労働に次ぐカテゴリーとして取り上げられるようになった。一般的には、百貨店の販売員やキャビンアテンダント、あるいは鉄道関係など、顧客との接点で最前線に位置する業務を指すが、コールセンターのオペレーターも含まれるという。
 最近韓国では、従業員に対する顧客のふるまいが社会問題化したケースがいくつかでてきた。日本と同じように、「お客様は王様」という「スローガン」が韓国にもあり、お客様の要求対しては、最大限配慮しなければならないとされている。しかし、最近百貨店の従業員が、顧客に土下座まで強いられるような事件が複数起きている。これは、従業員のストレスを高じさせるだけでなく、従業員の基本的人権にも係わる問題でもあり、従業員保護の立場から対策がとられることとなった。
 改正案のなかでは、「感情労働」という言葉は使われていないが、顧客の対応について、経営者がマニュアルをつくることを要請している。どのような暴力的な言葉や行為が、精神的あるいは物理的にも受容できないもので、顧客へのサービスを拒否できるか、常軌を逸した顧客の行為であれば、告訴もできることなどを従業員訓練で行う。従業員の訓練のほか、顧客の言動によって、精神的あるいは肉体的な被害を受けた従業員は、他の部署に移動するなどの措置を経営者に求めている。政府としては、経営者がこれらの措置を実施しているかどうか、継続して監督指導することも改正案に含まれている。
 韓国の感情労働に従事する労働者は460万人から740万人といわれ全賃金労働者の30%から40%にあたるといわれている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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