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No.361(2015/12/3)
トルコの政治情勢と労働組合

 中東の大国、トルコをめぐる情勢が緊迫化している。隣国シリアにはIS(イスラミックステート)の拠点が置かれ、内戦が泥沼化して、これまでに200万人を超える難民が押し寄せている。イスラエル、そしてエジプト、イラクなどの周辺諸国との緊張も続いているが、11月の爆撃機の撃墜事件によりロシアとの対立が先鋭化した。国内では、2002年から政権の座にある、与党でイスラム政党の公正発展党(AKP)が、6月の総選挙で、不祥事や強権政治批判などにより敗北した。その後、政権側は総選挙の再実施を表明、11月1日の投票では、AKPが過半数を再獲得した。10月の首都アンカラでの大規模テロなどもあり、国民が安定を指向したとされるが、政治への不満は継続しており、労働組合は政府への批判を強めている。

 トルコの現在の主な労働団体には、トルコ労働組合連盟(TURK-IS)、トルコ申請労働連盟(HAK-IS)、トルコ進歩労働組合連合(DISK)があり、いずれもITUC(国際労働組合総連合)に加盟、ITUC-AP(同アジア太平洋地域組織)の主要なメンバーである。この三組織は、同時に、同国のEU(欧州連合)への加盟をにらみ、欧州労連(ETUC: European Trade Union Confederation)にも所属している。ETUCは、トルコのEU加盟について、2007年の総会で、EU憲章における国民と労働者の基本的権利が保障されることを前提に、支持することを決定した。それ以降、加盟組織を通じて労働組合と労働者への支援を強めており、今日のトルコの政治情勢には憂慮を表明している。

 労働団体のなかで、最大の勢力であるTurk-Isは、政府、使用者団体との対話を重視する路線をとり、現政権以前には、共和国の社会を支えるパワーの一つであることを自認していた。しかし、エルドアン政権は、労働組合との対話路線から、規制緩和などでの強権的な姿勢に転換した。このため、TURK-ISは、参加路線を維持しつつ、今日では、急進派との共闘も行っている。一方、DISKは、従来から現政権とは対決の姿勢であり、10月には、アンカラでのテロを受け、2日間のゼネストを行った。11月の再度の総選挙についても厳しく批判している。

 そのような情勢のなか、11月15、16日、南西部のリゾート地、アンタルヤで、G20サミットが開催された。これに先立ち、13、14日には、G20諸国の労働組合リーダーによる会議(L20)と、政府首脳等との協議が行われ、日本からは連合の神津新会長が出席している。L20は、G20諸国の首脳との協議を通じて労働者の要求を実現するために、2013年のサンクト・ペテルブルグでのG20首脳会議以降、開催されているものである。今回は、サミットの確認文書となる「首脳宣言」で、はじめて社会的格差の問題が扱われ、「社会の一体性へのリスクがあり、負の経済的影響を与え、成長を阻害することがある」との認識を共有するなどの成果があった。そして、G20首脳とL20の協議には、エルドアン大統領が出席、EU加盟をめざす国の指導者として、労働組合との国際的な対話に応ずる姿勢を見せた。

 トルコは、中東の大国では唯一ともいえる民主制の共和国を維持している。AKPの再総選挙での勝利を受け、欧米諸国には、これまでの政権批判を緩め、地域の安定に向けての役割を期待する方向が見られる。一方、現地では、総選挙の投票日、11月1日は、かつてのオスマントルコの最後の皇帝が退位した日(1922年)であることが話題となり、大統領の“大トルコ主義”を懸念する声もある。エルドアン氏は、憲法改正による強力な大統領制実現が信条であるが、内外の情勢が厳しさを増すなかで、今後の労働組合との対話のあり方は、トルコの労使関係や労働運動の行方を左右するものとして注目される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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