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No.360(2015/11/30)
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に米国各界から反対の声

 10月8日に合意されたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に対し、米国内の各界から反対の声が上がっており、来年春まで続く議会の審議に向けて、激しい攻防が繰り広げられる。
 アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は、TPPが雇用を流出させるとして、締結阻止のため幅広い勢力を結集し、反対運動を展開しているが、米共和党の大統領候補に名乗りを上げたドナルド・トランプ氏も、TPPを「ひどい取引だ」と批判し、同じく民主党の大統領候補に手を挙げたヒラリー・クリントン氏も、TPPには貿易協定が備えるべき「高いハードル」が存在しないと、否定的な発言を繰り返している。
 ただし協定そのものは、大統領に与えられた一括交渉権限(ファストトラック)により内容の変更は許されず、承認か否決のみを決めることになる。
 自動車業界は、為替操作に対する条文欠如が問題と指摘し、特に日本の人為的な円安誘導による低価格の日本車により米国自動車業界が被害を受けているとして、フォードを中心に、為替操作国への対策を要求している。大手製薬業界は、バイオ薬品の知的財産保護を、米国国内法の定める12年とするよう要求しているが、協定では8年とされた。製薬業界は、TPPの内容を詳細に検討した上で対策を考えるとしている
 また、環境団体は、TPPには一般協定と同様に投資国紛争解決条項(ISD)が盛られているが、この条項は多国籍企業や投資家が、環境問題や健康などの問題で不利益を被る際に、国際仲裁パネルに相手国政府を提訴できると定めていることに対し、シエラ・クラブなどの環境団体は「仲裁パネル委員には企業側の弁護士が多いことから、大気汚染や環境問題を無力にさせる」と批判している。
 1994年にアメリカ、カナダ、メキシコ三国間で締結されたNAFTA(北米自由貿易協定)において、ISDは46件発動されており、このうちアメリカ政府が訴えられたのはわずか15件で、敗訴はゼロ。アメリカ企業がカナダとメキシコの両政府を訴えたケースは36件あり、そのうち6件でアメリカ企業が賠償金を得ている。
 アメリカ有利の判決事例では、アメリカの廃棄物処理会社が、カナダで処理した廃棄物を、アメリカ国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府が、環境保全の観点からカナダの法規に従って、アメリカへの廃棄物輸出を一定期間禁止した。これに対してアメリカの廃棄物処理業者は、ISD条項を盾にとってカナダ政府を提訴し、その結果、カナダ政府が823万ドル(約10億875万円)の賠償金を支払ったというケースもある。
 日本においては、国民皆保険、年金などの政府系機関、公共団体が行う福祉事業などが提訴の対象とされ、日本の法体系と社会基盤を崩壊させる危険性が指摘されている。

*1ドル=122.57円(2015年11月26日現在)

過去の関連記事.
メルマガNo.328(http://www.jilaf.or.jp/mbn/2015/328.html

チームスター労働組合、40万人の年金減額の危険

 米国最大の年金基金のひとつ、40万人のチームスター労働組合年金基金が連邦に再生法手続きを申請し、組合員には年金減額があるとする書簡を送付した。
 チームスター労働組合が加入する、セントラル・ステーツ年金基金(CSPF)と呼ばれるこの基金は、数十年の歴史を持ち、労働組合と多くの企業とが共同で運営しているが、再生法の申請によって、同様の赤字に悩む多くの退職年金基金に大きな先例となる。
 CSPFは、先代のチームスター労働組合ジミー・ホッファ会長らが、ラスベガスを莫大な年金基金の投資先とし、ここからマフィアとの緊密な関係が生まれた。つまり、マフィア関連のホテル、カジノ、あるいはモーテルの建設に基金から融資を行い、最終的にその利益の一部がホッファらに還流されていた。しかし、1982年にチームスター労働組合と暴力団とのつながりが摘発され、年金基金からの投資が制限され、投資対象は大手銀行だけとなり、現在に至っている。
 アメリカでは、一般的に退職者年金の減額は違法だが、CSPFでは「減額は、年金を永続させる唯一の現実的対処であり、そうでなければ年金は数年で倒産する。こうした事態に陥ったのは、トラック産業についての法改正や組合員の減少、保有株式の中の大手2株式の暴落、組合員の高齢化などが重なったためだ。現在の状況は企業からの掛金1ドル(約122円)に対し3.46ドル(約424円)が支払いに回っており、このままでは10年から15年で基金は枯渇する」と説明している。再生法申請では、80歳未満について段階的に減額されることになっている。
 数カ月以内に財務省が申請を審査して、来年5月までに承認かどうかを決定するが、承認されれば全組合員による批准投票が行われる。減額対象者からは反対が予想されるが、最終的に承認されれば、現行のままで50年は存続可能としている。
 過半数が反対した場合でも、財務省が承認すれば、CSPFの規模が”重要分野”に指定されることから、倒産の時には企業グループによる年金部分を引き離し、単独企業の分野を残す。その中には米物流大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)などの大手企業があり、そこは傷がつかない。UPSには4万8000人の従業員と退職者が加入しているが、チームスター労働組合との協約で満額支給が維持される。
 企業グループによる年金基金は、中小企業にも年金制度を定着させ、また転職する労働者にも年金の移転を可能にしたことから、トラックや建設、小売業界などの中で労働組合の強い企業で1000万人が加入してきた。また、多くの企業が集まることから、単独企業よりも強い制度とみなされてきた。ただ、企業グループの平均掛金額は単独企業に比べてはるかに低い。しかし、近年、企業倒産が多発したため倒産した企業の従業員4万3000人が生き残り企業に依存するようになり、採算が急激に悪化した。
 こうした状況にチームスター労働組合のホッファ会長(先代会長の息子)は、「再生計画には偽りの民主制がある。反対しても無視される」と述べているが、年金基金に対する権限はない。

*1ドル=122.57円(2015年11月26日現在)

過去の関連記事.
メルマガNo.186(http://www.jilaf.or.jp/mbn/2013/186.html

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