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No.353(2015/10/30)
労働者保護のため行政命令で闘うオバマ大統領

 短い任期を残すオバマ政権は、2008年の当選後、医療保険改革などには功績を残したが、労使関係では、投票による過半数の支持を得て労働組合が承認される労働関係法の投票要件の緩和などの改正には応えられず、連邦地裁や全国労働関係委員会(NLRB)の委員の任命にも弱腰すぎるとの批判も浴びてきた。しかし2011年、赤字財政立て直しの予算案が共和党優位の下院議会で阻止されると、オバマ大統領は労働者保護のためにできうる限りの方策を行使する方向に転換し、所得格差拡大を是正することや経済の硬直化に挑戦している。
 直近では、200万人の在宅介護労働者が対象となる残業代支払いを義務付け、全国労働関係員会(NLRB)はマクドナルドにあるような契約業者や、フランチャイズ業者の従業員について親元の大企業と労使交渉できることを判定した。それ以前にも、大統領は連邦政府の契約業者に対して、現在議会審議中の連邦最低賃金10.1ドル(約1219円)を適用するよう大統領令(議会の承認なしに行使できる)に署名した。さらに労働関係委員会(NLRB)は労働組合承認手続きの迅速化を図る諸方針を承認している。
 そうした中で、移民労働者を中心に労働組合のない労働者が、全国労働関係委員会(NLRB)に提訴するケースが増えている。提訴を主導する団体に、カリフォルニア州のSOMO’S(団結する我等)があり、ホテルなどで35件の提訴を行っている。過酷な扱いに耐えかねた9人の労働者が“職場委員会(Workers Committee)”を作って労働委員会に提訴したケースでは、数日後に解雇通告があったが、最終的には労働委員会からの復職命令とその間の6000ドル(約72万4200円)の補償、それに以前の給与及び残業代未払い分6万ドル(約724万2000円)の支払いが命令された。こうした解決事例から、SOMO’Sは全米の230の移民団体から注目を集めるようになった
 しかし、現実には連邦最低賃金引き上げを含め多くの重要法案が議会で阻止され、立法化された幾つかの法律も将来廃案の危険性にさらされるとともに、TPPなどの貿易協定や均衡財政の面では、労働者保護の方針とは裏腹に労働者を犠牲にしているとの批判も強い。
 ただ言えることは、オバマ政権及びその任命判事や委員が現実の経済に合わせて法改正を行っているだけでなく、共和党政権時代に変更された各種の反労働者的法令を元に戻していることであり、レーガン政権に変更された下請けフランチャイズ労働者に対する親元企業の責任を再度確認したのもその一例である。
 9月に入って、連邦地裁はタクシー配送システムのウーバー社のように、労働者を契約業者として扱うことで医療保険などの保障を逃れる事例の集団訴訟を受け付けると言明した。また、オバマ政権は連邦政府の契約業者及びその下請け業者の従業員と家族について、年間7日の病気有給休暇を義務付ける大統領令を発令した。ただし実施には公聴会などの手続きが必要であり、実施は2017年となる。
 さらに、オバマ大統領は外交面でもキューバとの国交回復、及びイランとの核交渉について、議会の反対を押し切りながら、任期中に進路を切り開こうとしている。

*1ドル=120.70円(2015年10月27日現在)

女性労働組合員の増加と労働運動の変化

 米国では、1963年同一賃金法により、同一の労働に従事する男女に対し同一の賃金が保障されている。当初は農業従事者、家事労働者、役職者、事務管理職および専門職が除外されていたが、その後の改正によって適用除外が廃止されるとともに、労働組合加入、人種、性、出生国その他の理由による差別が禁止されている。
 米国の労働組合の組織率が低落する中で、男性の組織率は13.0%、女性は11.8%となった。その間、女性組合員数は1980年代の公務員労働組合員増加の時代から着実に上昇しており、2025年には男性を凌いで50%を超えると予測される。
 それでも女性と男性の賃金格差解消には多年を要すると見られるが、女性の中での労働組合員と非組合員とを見てみると、教育や年齢などの違いはある。その格差は2014年の中位数比較で31%である。週給(フルタイムの賃金・給与)の比較では、男性対女性が899ドル(約10万8509円)対687ドル(約8万2921円)(131%)と、格差が歴然としている。
 人種別でみてみると、白人は923ドル(約11万1406円)対704ドル(約8万4973円)(131%)、黒人788ドル(約9万5112円)対590ドル(約7万1213円)(135%)、アジア系は950ドル(約11万4665円)対823ドル(約9万9336円)(115%)、ヒスパニック739ドル(約8万9197円)対520ドル(約6万2764円)(142%)となっている。
 女性の増加は協約交渉にも表れており、1980年から1990年の労働協約を比較したある研究では、男女差別の解消が多く取り上げられている。
 また、最近の全国労働関係員会(NLRB)によるマクドナルドなどを対象にした判決、つまり「フランチャイズ店と親元企業を共同経営とみなす見解を、下請け企業の労働者にも交渉権限の可能性があるとの見解に広げた」ことから、低賃金分野で3分の2を占める女性労働者の問題が、より顕在化する可能性が強くなった。ただこの見解は自営下請け業者には不利に働く。
 将来的には女性が労働組合において主要な地位を獲得し、女性問題が多く取り上げられることになると想定されるが、それでも共同経営の見解はケース・バイ・ケースであり、低賃金分野でも労働組合ができないウォルマートのようなケースが多く存在する。

*1ドル=120.70円(2015年10月27日現在)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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