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No.343(2015/9/24)
ドイツの労働事情

 7月28日、ドイツ・イギリス・イタリア3カ国の労働組合リーダーを招き、「人口減少下における経済・社会の活性化と雇用政策を考える」をテーマに国際シンポジウムを開催した。3カ国報告のうち、ドイツの報告の概要を紹介する。

ドイツ経済・社会に影を落とす人口減少
 ドイツでは、1972年以降死亡率が出生率を上回るとともに、2003年以降は移民による人口減少の埋め合わせ(ドイツの人口減少を補うには年間53万人の移民が必要だが、2014年のそれは50万人)ができなくなっており、人口減少が進んでいる。女性1人当たりの出産数は1.4人となっている。また、ドイツ東部の若者たちが豊かな西部へ移動し、経済的に弱いエリアがさらに厳しい事態となっている。

障害となる稼ぎ手一人の世帯モデル
 ドイツ労働総同盟(DGB)は、労働人口に占める女性の割合を高めていくことが重要なであると考えている。その意味で、子供・家族政策を整備していくことが喫緊の課題である。しかし、財政・社会政策の現状は、稼ぎ手一人の世帯モデルを後押しするものであり、女性の社会進出を後押しする政策とはなっていない。例えば、所得分割(2分2乗課税)が4割から6割以上のカップルを優遇し、片働きを後押ししている。健康保険も同様であり、配偶者収入が月400ユーロ(約5万4508円)未満なら医療費は無料となる。さらには男女の賃金格差(男性100に対し女性78)など、女性の労働人口化を阻む要因は少なくない。
 こうした現状に対し、公共政策として「父親の育休および母親の産休の法制」の改善などがあるものの、稼ぎ手一人の世帯モデルの解消に向けた運動はまだ道半ばである。
 しかし、今年採択された法律があり、企業の役員の3割は女性であるべきとする法律が施行された。この法によって、女性の労働参加率が促進されることを期待している。

最大の課題は高齢者雇用率の低さと年金改革
 ドイツにおける雇用政策上、取り組まなければならない課題は多いが、最大の課題は高齢者の雇用率の低さにある。55歳~59歳層は、2002年に42%が働き、その後も少しずつ増えてはいるものの、現状は50%強の水準にとどまっている。それにも増して大きな問題は、60歳以上の雇用率の低さにある。現状は3人に1人しか雇用されていない。早期に退職し年金生活に入ると、年金の受給額が40%位減額される。この結果、貧困に陥り社会福祉に頼る人も多い。年金の受給時期を遅らせれば、遅らせるほどメリットとなるような政策で、60歳以降の雇用を増やさなくてはならない。
 次に雇用政策との観点から、この年代層の生活に影響を及ぼす年金制度を中心に考えてみる。ドイツの法定年金制度は賦課方式によるもので、労使折半の拠出金でまかなわれ、保険料率は18.7%となっている。現在拠出者が5300万人、年金受給者が2000万人強、そして毎年120万人強が新しい受給者となっているのが現状である。
 年金受給者に対し保険料を払う現役比率は低下を続け、負担と給付の世代間の不公平を現実のものとしており、持続可能な制度に向けて更なる改善が必要となっている。その具体的対策とは、[1]標準定年を67歳へ引き上げ(給付開始年齢の引き上げ)ること、[2]生活保障から拠出金額重視へ変える、[3]賦課方式から企業年金または個人年金への転換などがある。
 高齢者を取り巻く環境は厳しくなるばかりであるが、多くの高齢者の就労を促すとともに、貧困の低減を図るべく、DGBは年金の従前所得置換率を引き上げる主張を行い、さらに年金受給者の生活保障や、連帯の形でもあるあらゆる人を関与させる年金制度の必要性を訴えていく。
 高齢者をはじめ、女性、若者、移民労働者などの潜在的労働者の意欲と力の発揮を促すよう運動の展開を図らなければならない。

*1ユーロ=136.27円(2015年9月17日現在)

イギリスの労働事情

 7月28日、ドイツ・イギリス・イタリア3カ国の労働組合リーダーを招き、「人口減少下における経済・社会の活性化と雇用政策を考える」をテーマに国際シンポジウムを開催した。このうち、イギリス報告の概略を紹介する

移民の流入でイギリスの人口は増加
 先進国の人口減少が問題視されている中、イギリスの人口は逆に増加している。2014年半ばの人口は6460万人で、前年から49万人ほど増えた。2004年からの10年間に人口は年平均0.7%増加し、この増加率はEU平均を上回っている。
 移出・入数の純移動は10年平均で24.3万人増加し、2014年も26万人の増加となった。小さな島国であるイギリスは、ここに住んで働くことを望む人たち(経済移民)がめざす目的地となっている。人口増加の影響は、社会、経済、さらには福祉、社会保障給付など、さまざまな課題として出てくるものと想定される。

人口が増加する中、進む高齢化問題
 人口変化の特徴は、移民流入にもかかわらず高齢化が進んでいることである。年齢中央値は、1975 年の33.9歳が2014年には40.0歳へと上昇し、年齢層別では65歳以上がそのウエイトを増している。
 イギリス政府は、これに対処するため緊縮対策の検討を迫られている。そのひとつが公的年金の持続性の観点から、受給開始年齢を70歳以降とすることであり、そうした場合、実際に受給年齢まで働くことが可能なのかという問題がある。実際、70歳までそれまでと同じ仕事を継続することができるのか、早い時期に退職せざるを得なくなることもある。個人個人の状況は違うため、働きたいという意欲を持つ高齢者がより長く働ける条件整備は進めるべきである。重要なことは、高齢化していく人口を支えるとともに、貧困問題なども含めて社会福祉政策を充実していくことである。 
 70歳への引き上げは、使用者も含めて大半の国民に歓迎されていないが、現役世代と受給者間の関係の変容は受け止めていかざるを得ない。むしろ社会問題化する若者の失業(16.6%)対策や、高齢者(失業率6.2%)の労働人口化策に注力すべきである。

イギリス人口の年齢別構成割合
0~15歳 16~64歳 65歳以上
1984 21% 64% 15%
1994 21% 63% 16%
2004 20% 65% 16%
2014 19% 64% 18%
予測される年齢別構成
2024 19% 61% 20%
2034 18% 58% 24%
2044 17% 58% 25%

移民の現状とその影響 ―国民の懸念が増大―
 人口増加の牽引役となっている移民の現状とその影響について触れてみる。
 2014年のイギリスへの純移住は31.8万人で、そのうち17.8万人がEU域内からで、19.7万人がEU域外からで、いずれも2013年比で約5万人の増加となっている。EU域内から、なぜこれだけ多くの人たちがイギリスに移住するのか。最大の理由は雇用にある。その中心は賃金が比較的低位にある東ヨーロッパ諸国からであるが、緊縮政策が失業をもたらしているギリシャやスペイン、ポルトガルからも流入している。また、EU域外からは、教育、研究を目的にイギリスに留学する人たちであり、大学側も緊縮財政の影響で補助金がカットされているため、上限の無い外国人留学生の学費は大学にとってメリットがある。これが流入のもう一つの理由となっている。
 しかしながら、移住する人が増えれば緊張も生じ、イギリス国民の移住に対する懸念が増大している。さきの選挙においてイギリスの右寄り政党であるUKIPへの投票が増えたのもその現れである。賃金が切り下げられる、雇用が置きかえられる、住宅のコストが上がる、公共サービスや交通へのアクセス等がカットされるという懸念がその正体であろう。
 TUCとしては、移住が生み出すメリットである成長の促進などを強調しつつ、誤った懸念が生み出す性別等のジェンダーをもとにした、もしくは国籍をベースにした差別をなくす運動に取り組んでいこうと考えている。
 移住に関し、TUCが考えている解決策は次の通りである。一つは、最低賃金を1時間9ポンド(約1684円、現行は21歳以上で6.5ポンド=約1216円)に引き上げることと。二つ目には、人口増加地域における公的住宅の建設、サービスの拡大。三つ目には、平等、公正の理念に基づいて、国民が持つ懸念の理由を洗い出し、その払拭に対処していくことである。TUCはこれらの実行に向け地道な運動を展開していく考えである。

*1ポンド=187.07円(2015年9月17日現在)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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