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No.341(2015/9/15)
インドネシアの資源産業等をめぐる紛争の動向

 インドネシアでは、2012年以降、通貨ルピアの下落が続いている。これは経済基盤の弱さや米国の金融政策が要因といわれているが、最近では、国際的な資源価格の低下と中国経済の減速が追い打ちをかけ、8月24日には1米ドルが14000ルピア(約118円)台となり、12年からみると実に5割ほど下落した。これは、1998年の通貨危機以来の低い水準であり、ウイドド大統領も当面の国政の最大課題と述べている。インドネシア経済を支える資源産業関連では、その影響がとりわけ深刻である。この分野では、これまでにも労使紛争や住民とのトラブルが続いてきたが、低迷する経済情勢の影響が懸念されている。
 資源産業でのこの間の労使紛争としては、インドネシア東部のイリアンジャヤ(ニューギニア島西部)のパプア州にあるグラスベルグ鉱山の事例がある。同鉱山は世界最大の金鉱山ならびに第3位の銅鉱山であり、米国の資源メジャーであるフリーポート・マクモラン社が、資本の9割以上を所有している。労使紛争は以前からみられたが、2013年に28人の労働者が死亡した崩落事故では、労働組合が抗議し、数カ月の操業停止があり、2014年には賃金をめぐる大きなストライキが行われた。今年の3月には、前年のストに不参加の労働者を中心とする争議があり、労労対立も含みながら、企業側による操業の縮小や停止が行われた。ニューギニア島の世界的な鉱山におけるこのような労使紛争は、国の経済や金、銅の国際相場にも影響を与えるものとして注目されている。
 インドネシアの資源関連の産業では、住民との間にもトラブルがみられる。今年の7月29日、ジャワ島の中部ジャワ州にあるバタン石炭火力発電事業をめぐり、現地住民の代表が、NGOの支援を受け、日本の商社などを、「OECD多国籍企業ガイドライン」への違反があるとして、日本政府の窓口(ナショナル・コンタクト・ポイント:NCP)へ訴えた。申し立てによれば、発電事業の推進のために広大な農地が収用され、農民が労働の場を失うとともに、環境汚染がすすみ、抗議する住民への暴力的な対応も行われたという。今回の提訴では、「人権、社会、環境への悪影響への事前防止策が不十分」として、2013年に改正された同ガイドラインの新しい基準も用いられている。
 インドネシア政府は、資源関連産業をめぐる紛争を予防するため、2007年に会社法を改正し、「資源セクターに関係する企業は社会的・環境的責任を履行する義務があり、それを企業会計に組み込まなくてはならない。違反する企業は関連法により罰する」とする規定を設けた。これは、企業の社会的責任(CSR)を法制化したものとして、国際的にも話題となったのだが、今日では、その実効性をめぐり論議が行われている。法律の規定をより具体化して強化するとともに、企業会計における組込みの割合を明示すべきとの意見があるが、反対論も根強い。資源関連産業での健全で安定した経営の実現は、経済の変調が続くなかで、インドネシア社会の大きな課題であり、政府の対策や労使の対応が強化されることを期待したい。

*1ルピア=0.0084円(2015年9月9日現在)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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