バックナンバー

No.328(2015/7/31)
ドミニカ共和国のハイチ移民労働者に強制退去の脅威

 フロリダ半島の南東部の西インド諸島に位置するドミニカ共和国で、そこに働く数十万人のハイチ移民労働者が強制退去の脅威にさらされている。
 事の発端は昨年5月に導入された市民登録・帰化に関する特別措置法によるもので、非正規滞在の外国人を両親に持ち、出生届けが出されていなかった者に対しは、特別プログラムに登録し居住許可を得るよう求めている。
 その数は政府発表では24万人とされるが、民間の推定では52万4000人の外国人労働者の90%を占めるハイチ人、47万人が対象といわれ、大きな問題となっている。
 これらハイチ人労働者は数世代に渡って隣国のドミニカに砂糖栽培、清掃人、ベビーシッターとして雇われてきたが、不法移民が多く、1930年代には数万人が大量虐殺されたとの記録がある。2010年のハイチ大地震の際にはさらに多くの不法移民が発生した。
 2013年にドミニカ憲法裁判所がドミニカで生まれた子供でも1929年にさかのぼって国籍を認めないとする判決を出して大きな国際問題となり、翌年その措置が緩和される事態も起きた。
 ドミニカ政府はドミニカ生まれの子供を含め45日の期間内に書類を整えた者の登記を受け付けるとしているが、期間内に登記できる労働者がどのくらいいるのか、強制退去となる労働者と家族の受け入れをハイチ政府が認めるかなど、問題は大きい。
 今回の事態についても、国際人権保護団などが人権侵害にあたると訴えているが、米国を含めた近隣諸国には、2013年のような高い関心がない。不法移民に関して同様の問題を抱えているためである。ハイチに比べて約5倍の1人当り国民所得をあげるドミニカ共和国だが、大量の低賃金労働者を失うことによる経済への打撃も懸念されている。

労働運動がTPPの大統領貿易促進権限を阻止

 アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は、オバマ大統領が全力で推進するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の締結を阻止するため幅広い勢力を結集した。労働運動は自由貿易交渉が雇用を流出させるとして長年反対してきたが、今回は非常に強い反対勢力を結集している。
 2016年の大統領選に向け、民主党有力候補であるヒラリー・クリントン前国務長官は、AFL-CIOのこうした要請に対して明確な対応を避けているが、党内対抗馬のサンダース上院議員はTPPに強い反対の姿勢を示している。
 AFL-CIOは2013年に、労働運動実践にあたって共感する幅広い勢力の結集を方針に掲げたが、TPP問題はまさにこれにあたる。環境団体、宗教団体、移民、インターネットの開放、人権問題、進歩派、それに加えオバマ大統領の権限強化を嫌うティーパーティまでを複雑に巻き込んで勢力を結集した。AFL-CIOは移民問題や同性愛問題でも同様の成果を上げたが、今回ほど勢力を結集できたのは初めてである。
 AFL-CIOのトラムカ会長は5月の来日時に、連合が主催したセミナーにおいて、大統領選に向け、労働者の賃金引上げを図るか否を明確にして我々の候補者の選定をすると明言した。TPPでAFL-CIOが問題にするのは雇用の海外流出であり、オートメーションや技術移転と並んで自由貿易協定がそれを促進させたとの思いが強い。問題視されているのが北米自由貿易協定(NAFTA)であり、それ以前に始まっていた雇用流出がNAFTA以降中国との貿易正常化も加わって加速し、政府が主張した輸出増進による雇用創出が実現できなかった。
 ただし、雇用が増加した部門もあるが、それはAFL-CIOに属さない産業ないしは海外移転できないサービス産業であり、そこではAFL-CIOに加盟していないサービス労働組合(SEIU)が勢力を拡大している。SEIUは貿易問題には沈黙を守っている。
 AFL-CIOは雇用喪失の他にも、外国における労働権侵害を問題にしており、例えばベトナムについては貿易自由化よりも結社の自由実現が先だと主張、この主張を支持する民主党議員は少なくない。環境問題についても政府は加盟国に厳密な環境基準が確立されるとするが、著名な環境団体のシエラクラブは不安を表明している。薬剤業界はパテントの使用期間延長に反対、インターネット開放派は新規規制を不安視、フォードなどの製造業ではTPPに為替操作への対応がないとして批判的である。
 AFL-CIOはこうした数々の動きを察知しながら反対運動を支援しているが、貿易促進権限(TPA)(注)に賛成の民主党議員に対しては、批判的な宣伝活動を展開、議員の訪問地では反対デモを組織した。民主党議員の中にはAFL-CIOへの反感も生まれているが、ある労働組合幹部は「貿易交渉に賛成の民主党議員の中にも労働組合の支援が当然と思っているものがいるが、反対の時は反対だ」と語る。
 その中で、民主党のナンシー・ペロシ院内総務が今までの沈黙を破って、
下院議会での投票直前に反対演説を行う事態も起きており、“海外競争により流出した雇用を国内のインフラ整備により創出する”とする労働組合の要求が、オバマ政権の政策を引き戻す力になるかも知れない。

(注)米国における通称交渉の権限は、通常は議会に与えられている。TPAが適用されると、交渉権限が大統領に与えられ、議会は修正を許されず賛否のみを問うことになる。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.