バックナンバー

No.324(2015/7/8)
タイの新憲法制定と労働法改正の動向~民政復帰への展望

 タイは7月に、昨年のクーデターによる軍事政権が暫定憲法を公布してから1年という節目を迎える。暫定政権による当初の民政復帰のプログラムは、今年の7月に新憲法を制定し、年末までに総選挙を実施するというものであった。しかし、新憲法の草案についての批判も強く、また、新たに国民投票を実施する方向となったことから、総選挙による民政への移行は来年の9月頃まで延期される見通しとなった。
 現在の暫定憲法によれば、新憲法は「憲法起草委員会」が起草し、国会の暫定代替機関である「国家改革評議会」が承認、国王の署名を受けて公布される。それぞれの機関は、軍事政権の根幹である「国家平和秩序評議会」のもとにある。新憲法について国民投票が行われることから、暫定憲法の改正も行われる見込みである。
 さて、この4月、憲法起草委員会が草案を公表すると、政治的な立場を超えて各界からの批判が巻き起こった。草案は、比例代表併用の選挙制度や民間からの首相任命の容認など、政党を重視する民主政治とは方向を異にするものだったからである。この背景には、タイの歴史上最も民主的といわれた「1997年憲法」がタクシン政権を生み、タイを二分する抗争を招いたとの認識があるといわれる。しかし、今回の草案については、反タクシン派の代表格である民主党のアピシット元首相も「民意を反映しない制度」と批判している。
 新憲法の最終案は今月末にもとりまとめられる方向であるが、各界からの厳しい指摘が続いていることから、憲法起草委員会は、暫定政権のプラユット首相に、国民投票の実施を提言した。首相は、当初はこれに否定的であったが、その後、受け入れに転じるとともに、この5月には「総選挙は来年9月」との見通しを示した。
 なお、タイでは、新憲法の起草と並行して、労働法の改正について検討が進められている。タイの労働法制は、進歩的といわれた「1956年労働法」以降、度重なるクーデターを挟み、変転を続けてきた。今日では、民間の労使関係、労働基準、公務関係などの法律が異なる理念のもと分立している。暫定政権は、これに対して、政権幹部や専門家による特別委員会を設置し、労働法制の統合化に向けた検討をすすめている。委員の一人である国立大学の労働法の専門家は、「新憲法の制定に続いて労働法の大きな改正となる可能性がある」と語っていた。
 タイの政治が安定することは望ましいことであるが、その一方で、民政復帰が遅れていることに、内外の懸念の声も強まっている。労働法制の改正の動きについても目を離せない状況が続くことになる。この間、政治的な混乱が続いてきたタイであるが、それを乗り越えて、経済統合のすすむASEANの中軸国にふさわしい民主主義の制度を築いていくことが期待される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.