バックナンバー

No.292(2015/1/27)
ASEAN経済共同体(AEC)の発足と労働法制

 2015年はASEAN(東南アジア諸国連合・1967年発足・現在は10カ国が加盟(注 )・域内人口約6億人)にとって、「経済共同体」(AEC)が発足する節目の年となる見込みである。2014年の年末には、国際機関、世界のシンクタンクやマスコミが、相次いで、AECの意義と展望に関するシンポジウムなどを開催した。日本でも、ILOのアジア太平洋総局とアジア開発銀行(ADB)による共同研究を踏まえた東京での「セミナー(12月15日)をはじめ、いくつかのシンポジウム等が開催されている。
 ASEAN経済共同体(AEC)は、現時点では、欧州共同体(EU)のように通貨の統合を含む高度な経済統合を目指すものではない。これまで、政治的にも経済的にも分断されてきた、この地域をゆるやかな単一市場に統合し、まず関税について例外項目を除き、加盟10カ国が基本的には撤廃することが当面の主要な目標である。このことを中心に、サービス、資本、投資についての自由化をすすめる。2015年12月のASEAN首脳会議で、これらを確認し、AECの発足を宣言することが想定される。
 ASEANの統合は、2008年発効の「ASEAN憲章」を基礎に、2009年には「工程表」(Blue Print)が策定され、2020年までに、「経済共同体(AEC)」のみならず、「政治・安全保障共同体」、「社会・文化共同体」をめざすとされた。このなかでは、AECが先行しており、2015年の発足が見込まれる段階となった。統合の歩みが緩慢であることを指摘する声もあるが、この地域の歴史的、文化的な多様性を考えれば、本格的な統合へのスタートラインとして意義があるものといえよう。
 労働の分野はどのように扱われるか。現時点での主要な課題は、域内で約650万人といわれる移民労働者の対策である。2007年には、「移民労働者の権利と保護の促進に関するASEAN宣言」が策定され、「ASEAN移民労働者委員会」を設置、熟練労働者、非熟練労働者、人身売買の三つの分野で対策を検討することが確認された。このうち、AECの枠組みでは、熟練労働者について検討されており、開業医、会計士、建築士、看護師などの八職種について、国家資格の相互認証が確認されている。しかし、移民労働者の多数を占める非熟練労働者については、「社会・文化共同体」の枠組で扱うとされているものの、送出国、受入国の意見の違いもあり、具体的な方向は示されていない。これらについて、ILOは、「現実とはかけ離れたアプローチ」(ADBとの共同研究報告書)とコメントしている。
 ASEAN各国、とくに、労働組合の間では、AECの発足に伴い、合法、非合法の移民労働者がさらに増加し、先進地域では各国労働者の雇用不安や労働条件の引き下げ、後進地域では移民労働者の保護の弱体化に結びつくとの懸念が強い。2014年12月15日の東京でのILOとADBの共同研究にもとづく前述のセミナーでも、人材移動の一層の自由化を求める識者に対して、フィリピンの労働代表から、労働者保護を犠牲にするのかとの反論が示されていた。
 ASEANでは、移民労働者は主要な労働力あるいは重要な外貨獲得手段となっている。各国では、シンガポールの「外国人労働者雇用法」(1990年)、タイの「外国人就労法」(2008年)、フィリピンの「移住労働者法」(1995年)、インドネシアの「移住労働者法」(2004年)などに基づく取組みが行われている。AECの発足を受けて、移民労働者に関する各国の労働法制のあり方が、それぞれの政労使の論議の焦点となっていくであろう。


i インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア(加盟順)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.