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No.220(2013/12/24)
ベトナムにおける労使紛争の現状と課題

報告者:(株) 会川アジアビジネス研究所
代表取締役 会川精司

 国際労働財団(JILAF)は、9月26日、「海外労組トップリーダー・有識者聞く!~アジアで増大する労使紛争を未然に防止するために~」をテーマに、労使紛争未然防止セミナーを開催した。
 以下、セミナーで報告されたベトナムにおける労使紛争の現状と課題について、概要を報告する。

1.ベトナム労働法と労組の設立
 2012年にベトナムの労働組合法及び労働法が改正され、労働組合の定義は「ベトナム社会主義共和国の建設及び防衛のための啓発、教育を行う」とされ、改正前に比べると温和な表現となった。しかし、日本の労働組合の定義である「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図る組織」とは対照的に、ベトナムの労働組合は、労働階級及び勤労人民を指導する社会的・政治的組織として位置づけられている。
 もう一つ重要な点は、ベトナムの労働法では労働組合をつくらなければいけないと定めていることである。このため日本企業は、一斉に労働組合作りを行なった。そのとき、会社側の意向を理解している中堅管理職等を労働組合の委員長に据えようとした。

2.最低賃金の動向と労使紛争
 タイ(アジア)の通貨危機の影響でベトナムの成長率が大きく落ち込んだことから、外資企業の招致を進めるため、ベトナム政府は法定最低賃金を2000年から6年間凍結した。この結果、2005~2006年ごろに第2次ベトナム・ブームが起こり、外資企業もまた戻ってきたことから、2006年に最低賃金を一挙に45%引き上げた。
 最低賃金が45%引き上げられても、最低賃金よりも少し上にいる労働者の賃金はそれほど上がらなかったため、その下にいる労働者との差がなくなることになった。逆に、中堅管理職の給料は大幅に上がった。このように間に挟まれてあまり賃金が上がらない労働者の不満から、ドンナイ省で十数社の労働争議及び違法ストライキが発生した。こうした紛争は、2007年にはベトナム全域で起こるようになった。この頃から、いわゆるアウトサイダー(外部者)が現れ、成功報酬を求めて争議を起こすことが多くなった。
 違法ストライキの発生原因は、従業員の賃金(給与)・賞与・手当に対する不満のほか、給与の未払いなどからも起きている。さらに、長時間労働、職場環境の改善や食事改善要求がある。いわゆる山猫ストライキで一番多いのは、社員食堂の食事の改善と言われている。このほか、労働者への厳し過ぎる指導管理に対する抗議から起こる争議もある。
 違法ストライキが発生した場合、大事なことは感情的にならず冷静に対応することで、まずは労働者側の意見聴取を行なう。また、ストライキが違法であることを行政機関にも調査、確認要請をして、確認書を取りつけることも必要である。
 (注)ベトナム労働法では、ストライキを行う場合、労働者の50%超の賛成が必要で、5
 日前までに企業へ通知するとともに国家管理局と労働団体へ届ける必要がある。

3.今後の建設的な労使関係の構築に向けて
 一つ目は、労働協約・就業規則の労使双方による見直しのため協議を行い、文書の整備をはかる。さらに、労使双方で賃金、最低賃金、各種手当などの労働条件を明確化し、不要な誤解や不信を招かないようにすべきである。
 二つ目は、労働組合の再構築を行なうことである。日本企業が進出初期から行った中堅管理職の組合役員就任に対して、職場の労働者の中から組合役員の選出をさせるなど、見直しの動きが出ている。
 三つ目は、労働現場とか職場組織の再構築である。労働集約型の軽工業の職場ではマンネリ化が進む。このマンネリ化を防ぐため、ある工場では、グループ単位の競争をとり入れるなど工夫をしている。また、スタッフへの評価制度の導入など、日系経営者が努力している事例がある。
 四つ目は、現地の事業経営者と本社組織との連携である。ベトナムにおける従業員の性質や労使関係、労使問題に関して、現地の社長は本社の経営者にはっきり説明して、現状を理解させることが必要である。また、緊急時の本社支援体制の整備など、現地と本社が一体となって対応していくべきである。
 最後は、外資系企業経営に対する地方行政の無知、無関心を是正してする必要である。このため企業や商工会、在外公館レベルで情報交換を行いながら地方行政に働きかけを行なうことが重要である。また、ベトナムの地方行政や社会に対して日系企業が社会的貢献を行えば、従業員からも尊敬され喜ばれる。

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発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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