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No.189(2013/8/13)
メキシコ自動車産業に新たな労働問題と課題

 米国とメキシコの自動車産業は、米国で高級車、メキシコで低価格車を生産する分業体制を長年続けてきた。その中でメキシコは、生産台数を毎年記録的に増加させ、多額の新規投資を呼び込んでいる。労働者の技術と生産性も米国に近づく中で、従来の米国・メキシコの分業体制に変化が出てきた。
 ゼネラルモーターズ(GM)は、メキシコでキャディラックSUV(多目的スポーツ車)などの生産を始め、アウディも2016年からの現地生産をめざし、プエブラ州・サンホセチアバに高級車生産のための工場を建設する。
 メキシコは、年間300万台の自動車を生産しており、ここ数年間は年間38%の増加が見込まれ、日産やマツダ、アウディなども増産体制を強化している。生産台数の20%は国内で成長している中産階級が購入しているが、80%は米国を中心とした輸出向けとなっている。
 こうしたメキシコブームは、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)締結以来続いている、米国製造業のメキシコへの流出とその低落傾向を確認するもので、全米自動車労働組合(UAW)や労働者にとって危機感を募らせる材料である。特に破産から政府支援を仰いだGMとクライスラーの労働者に強く、さらに50の工場、5万人の従業員を有するデルファイなどの部品企業労働者にも危機感は共通する。
 他方、米国とメキシコの自動車産業は補完関係にあって一体化しており、この協力関係で東アジアや欧州に対抗する競争力が付いていることにより、メキシコ、米国ともに雇用は増加している。
 昨年、米国で1000万台、メキシコで300万台、カナダで250万台の北米全体で合計1550万台の自動車が生産されている。それが2020年には、総数1780万台のうち米国1170万、メキシコ410万で、カナダは190万台に減少すると予測されている。
 この背景には、カナダ自動車労働組合(CAW)が賃下げを強硬に拒否している反面、UAWは賃下げに合意しており、小型車を含めて米国への生産が戻ってきている状況がある。
 現在、米国の自動車工場で働く労働者の時給は14~16ドル(約1393~1593円)である。これは、従来の労働者の賃金から半減しているが、それでもメキシコの自動車産業労働者の賃金の6~7倍となっている。
 こうした関係についてある有識者は「今まで米国内で自動車生産が維持できたのは、輸送コストの節約や部品生産の多様化による供給の円滑化であった。特にGMとクライスラーが政府支援を受けた政治的理由が強かった。しかし、ビッグスリーの自動車部品の40%がメキシコ製となった今、それで世界的競争力が強化できている。メキシコ無しには生産は続けられない。米国自動車産業が健全であれば、米国経済全体が潤う」と語る。
 この点についてUAW関係者はコメントを拒否しているが、UAWは従来から多くのメキシコ労働組合が弱体かつ分裂しており、会社に従順なことを批判してきた。
 他方、1959年からメキシコ・クライスラーで働いている労働組合幹部(時給3.50ドル=約348円)は「今まで一度もストライキを起こさなかった労働組合を誇りに思う。労働組合の役割は労使の調和を保つことであり、米国のような問題は起こさなかった」と語った。
 しかしある大学教授は、「これからもメキシコへの投資は拡大し、メキシコが世界生産の軸になる。ただし、メキシコが今後とも生産の大半を輸出に回し、低い賃金が続くような不均衡が続く場合は、米国の経済成長の足を引っ張ることになる。メキシコの賃金が上昇し、労働者がメキシコ製の自動車だけではなく米国製の自動車も購入できるような、両国での消費者需要の高まりに基づく貿易関係が必要だ」と述べている。

1ドル=99.566円(2013年8月2日現在)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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