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No.183(2013/7/9)
インド労働事情

 国際労働財団(JILAF)は1989年の設立以来、現地支援事業として開発途上国の労働組合ニーズに基づき、労使関係や組織化、生産性などに関するセミナーやワークショップを、アジア諸国を中心に展開してきた。インドでは、1998年から現地のナショナルセンターであるインド全国労働組合会議(INTUC)と協働で児童労働撲滅のための学校プロジェクトを実施し、非正規学校を運営している。さらに2007年以降は、インフォーマル労働者の組織化地域ワークショップやPOSITIVE(職場の環境改善)セミナーなども実施している。

【インド概要】
 インドは、12億人を超える世界第2位の人口を擁する南アジア最大の国である。公用語はヒンディー語だが、他に憲法で公認されている21の州独自の言語があり、識字率は2011年度の国勢調査によると74.04%となっている。
 1947年イギリスの植民地から独立する際に、インドとパキスタンに分裂し、その後、東パキスタンが1971年にバングラデシュとして独立した。ヒンドゥー教徒が最も多く、ヒンドゥー教の身分制度であるカースト制度の影響が今も残り、複雑な身分制社会を形成している。また、1日1.25ドル未満で暮らす貧困ライン人口は4億人を超えており、地域間格差も大きく、極度の貧困に苦しむ人が多い。労働力人口は、2012年6月現在で5億2000万人、毎年2000万人が増加している。
 インドへの日系進出企業・拠点数は自動車や製造業、食品産業などを中心として2012年10月現在で926社・1804拠点となっており、毎年約100社のペースで増加し、インドの雇用や社会活動に大きく貢献している。

【インドの労働事情】
 インドの労働組合の組織形態は主として、企業別、事業所別、産業別、産業・地域別、職業・職能別など、使用者が労働組合と認めた労働組合と、8州以上、8産業以上で最低80万人以上を組織化し政府の登録を受けているナショナルセンターの2つに分類される。政党とのつながりが強いのもインドの労働組合の特徴でもある。
 労働組合の組織率は、2~3%。インドの労働条件や労使関係は元来良好であったが、多国籍企業の影響力が増加すると共に、労使関係の悪化に繋がっている。
 INTUCなどの現地ナショナルセンターは「現在の労使関係は良好であるが、多国籍企業や輸出加工区(EPZ)で労働組合結成を阻む動きがみられており、これらの状況を改善するためにも労働組合教育が必要だ」と語っている。
 現在ナショナルセンターは、[1]インド労働連盟(BMS)[2]ITUC加盟のインド全国労働組合会議(INTUC)[3]WFTU加盟の全インド労働組合会議(AITUC)[4]ITUC加盟のインド労働者連盟(HMS)[5]インド共産党(CPI)系のインド労働組合センター(CITU)[6]UTUC[7]AIUTUC[8]ITUC加盟の女性自営労働者連合(SEWA)[9]AICCTU[10]TUCC[11]LPF[12]LFITU-DHN[13]NFITU-Kol――の13組織で、そのうちLFITU-DHNとNFITU-Kolを除く11組織で緩やかな協議会(ILC=Indian Labour Conference)を設置している。現在の協議会は、議長であるINTUC サンジェバ・レディ会長を中心に、雇用の拡大、労働法の適切な実施、社会保障の充実、最低賃金月額1万ルピーの実現(現在月額4000~600ルピー)など10の要望をまとめ、政府などに働きかけを行なっている。
 1991年の経済危機以降、経済の自由化を進めているが、労働法制においては依然として規制が敷かれている。インドの労働法は、連邦レベルと州レベルがあり、被雇用者をworkman(労働者)とnon-workman(経営者・管理職)に分けている。これにより、workmanかnon-workmanのどちらを採用したかにより、適用される法律や保護の内容などが大きく変わってくる。
 また、労働者保護的で国による規制的な側面が強く、労使関係においても調停官などが介入するため、労使の対話による労使関係の構築が未成熟となっている。この労働法による労働者保護の恩恵を受けるのは就業人口の1割に満たない組織部門(organized sector)の労働者で、就業人口の9割を超える農業をはじめとした小規模組織や未組織部門(unorganized sector)の労働者には適用されない労働法が多い。
 協議会は今年2月、最低賃金の引き上げ、常用雇用者と請負(派遣)労働者の同一労働同一賃金、社会保障の普遍化などを要求し、全国規模のストライキを行なった。このストライキは各地に波及し、自動車工場の操業停止や銀行の窓口閉鎖などにより、経済に大きな影響を与えた。2012年度の招聘事業参加者によると、多国籍企業の労使紛争の原因は、[1]採用・解雇方針[2]労働組合の非承認[3]雇用保障が無い[4]社会保障の欠如[5]低賃金、業務量過多――など、さまざまな要因が挙げられると報告している。
 ナショナルセンターの連携が図られる一方で、リストラや工場閉鎖が相次ぐ中、成長地域・産業では、ナショナルセンターには加盟せず、企業レベルで自らの利益に直結する問題に目を向ける独立労働組合が増え、労働運動の分権化の傾向もみられている。

【おわりに】
 インド経済は1992年から20年間にわたり、毎年4%以上のGDP成長率を示し、人口規模では2025年には中国を抜き、世界第1位になる見通しである。その中でも若年人口が増加し、世帯年収が5000ドルを超える中間層が2030年までに人口の半数までに拡大することが見込まれており、製造業を中心とする日本経済の大きな成長機会として有望視されている。しかしその一方で、貧困や地域格差、無くならない児童労働や女性への暴行事件など、大きな社会問題も抱えている。 
 JILAFは、インドにおける対話に基づく建設的な労使関係の構築のための労働組合教育と、児童労働撲滅のための活動を今後も現地ナショナルセンターと協力・連携しながら活動を展開していく。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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