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No.172(2013/5/1)
インドネシアにおける最近の労働事情

 国際労働財団(JILAF)は、インドネシア労働組合総連合(CITU/KSPI)と共催で、「労使関係・労働政策セミナー」を2013年2月27~28日、インドネシア・ジャカルタで開き、約160人の労働組合指導者が参加した。
 2010年は6.1%、2011年も6.5%という堅調な経済成長を続けるインドネシアの労働情勢について報告する。

1.労働運動と労使関係
 
 インドネシアの労働運動は、引き続き金属産業別労働組合連盟(FSPMI)を軸とするCITUを中心に活発な活動を展開しており、当面の重要課題は[1]最低賃金[2]アウトソーシング(主として派遣労働者)[3]社会保障――などである。
 デモによる要求は、最低賃金とアウトソーシングが中心で、CITU幹部は「対話を求めているが政府が応じないので行動を起こしている」と説明している。
 最近の最も激しい労働組合の行動は昨年6月、日系企業をはじめとした製造業が集積する西ジャワ州ブカシ県で行なわれたアウトソーシング労働者の正規化要求の闘争であった。企業への押し掛け、誓約書の強要、バイクによるスイーピングなどが行なわれた。また秋から冬にかけても、インドネシアの3大労働組合総連合(CITU、KSBSIおよびKSPSI)で構成するインドネシア労働者評議会(MPBI)が、最低賃金とアウトソーシング問題などで大規模行動を行なっている。
2.最低賃金
 
インドネシアの最低賃金は州、地区、市レベルで各地域の物価動向を調査の上、行政当局の政令で定められることになっている。今年の最低賃金闘争はほぼ終了し、2013年のジャカルタ首都特別州の最低賃金は史上最高の44%引き上げられ、月額220万ルピア(約2万2500円)となった。他の州や地区、市レベルでも大幅に引き上げが行なわれ、西ジャワ州ボゴール市では71%の引き上げとなった。
 労働組合は、タイなどに比べて不当に低い最低賃金を是正したとの見解を出している。企業側からはデモの動向と合わせて進出見直しの声もあるが、日系企業は「撤退するほどのレベルではないが、最低賃金の急激な上昇は今後に向け大きな不安材料である」とコメントしている。
 インドネシアにおいて最低賃金は三者構成委員会の結論を参考に知事が決定することになっている。しかし、労働組合の要求行動によって、委員会結論を上回る引き上げとなったこともあり、使用者が反発して裁判所に提訴する事例もある。これに対し労働組合は、示威行動による対抗措置などを繰り返してきた。
3.アウトソーシング問題
 
 アウトソーシングは、日本でいう「非正規労働問題」に近く、制度上は[1]派遣労働[2]業務請負[3]有期契約労働[4]研修生制度――などがある。アウトソーシングは派遣労働と業務請負が中心だが、数年前には有期契約労働が大きな課題であった。
 昨年の焦点は派遣労働で、法により「コアとなる業務」と、これまで対象となっていた「コアでない業務」との区分が不明確であった。しかし昨年11月、労働・移住省大臣令により労働者派遣が可能となったのは「清掃」「警備」「ケータリング」「運輸」「鉱業」の5業種に明確化され、労働組合は成果と捉えている。
 業務請負は、5業種以外の補助業務のみ認められるとしているが、判断基準は現在も不明確のままである。業界団体が業務の流れを分析し、主要業務と補助業務を区分することとなり、2013年3月に改正案を提案し、11月から施行予定となっている。
 有期契約労働は原則1年、特別な条件を満たせば3年が上限である。有期契約労働は、臨時的・季節的労働にのみ認められるが、その判断は必ずしも明確ではなく、争点となっている。
 また、研修生を事実上の労働力とする事例も大きな問題となっている。日系企業は、研修生については座学を含む正当な研修を実施するよう努めている。しかし、現実には現場労働者として働かせながら1年間すべてを研修生とし、その中から、半分程度を有期契約労働者として採用していた例があるなど課題を抱えている。
4.解雇問題
 
労働関係の焦点のひとつは解雇問題である。現在の制度では、解雇は監督官の承認が必要で、それに不服の場合は労使関係裁判所で扱われ、その後、実際の解雇が可能となる。
 就業規則上の解雇自由や罪を犯した場合などでも、そのルールが適用となる。日系企業は大きな問題のある社員でも解雇が難しいとして、アウトソーシングを活用する方向を強めてきたという経緯がある。
 
5.インドネシアの社会保障制度と新たな動き
 
現在のインドネシアの民間労働者を対象とした社会保障制度は、『労働者社会保障法』(JAMSOSTEK:1992年制定)により、「労災補償」、「死亡保障(見舞金、埋葬料)」、「老齢積立金」、「健康維持保障(健康保険)」の4分野が実施されているが、失業保険制度は無い。
 この制度には、従業員10人以上の事業者または月額100万ルピア(約1万円)以上の賃金を支払っている従業員を加入させる義務がある。保険料は、労働者負担があるのは「老齢積立金」(事業主3.7%、労働者2%)のみで、他の制度は全て事業主負担で賄われている。
 この「老齢積立金」は、労使の保険料の積立合計額とその運用結果を加算した金額が、「55歳に達したとき」、「5年以上加入して雇用関係が終了したとき」に一括または最長5年間の分割で支給される(いわば、労使積立型の退職金制度)。
 なお、国民皆保障をめざす『国家社会保障制度に関する法律(SJSN法)』( 2004年)、『社会保障実施機関法(BPJS法)』(2011年)が制定され、従来の4分野に新たに「年金制度」が追加された。この法律に基づき2014年には、労働者を対象に新たな健康保険制度が実施され、2015年には全国民を対象とする制度が検討されている。新たな年金制度も2015年7月までには実施されることになっている。
 この新たな健康保険制度では、労働者からも保険料を徴収するため、労働組合には反対の声もある。さらに、経営者側もこれ以上の社会保険料の負担増に反対しており具体的な労使の保険料負担の割合や給付内容の範囲等が当面の課題となっている。
 さらに、現在の労働者社会保障制度(JAMSOSTEK)の対象者は、フォーマル部門(全
 就業者の3割)の正規労働者に限定されている。そのため、7割を占める自営業などのインフォーマル部門の就業者を含めた「皆保険制度」や「皆年金制度」を実現するには、制度設計や保険料徴収のあり方など大きな課題がある。
 現在、解雇については法律で厳しく規制されており、退職手当(10年以上の勤務者に賃金の30ヵ月分以上の支払い)も法律で義務づけられていることもあって、これまでは失業保険の必要性について論議することは労使ともに無かった。

*1ルピア=0.0102円(2013年4月25日現在)

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メルマガNo.101 (http://www.jilaf.or.jp/mbn/2012/101.html
メルマガNo.139 (http://www.jilaf.or.jp/mbn/2012/139.html
メルマガNo.159 (http://www.jilaf.or.jp/mbn/2013/159.html
メルマガNo.162  (http://www.jilaf.or.jp/mbn/2013/162.html)

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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