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No.147(2012/10/15)
「民主化」で揺れるフィジー

 南太平洋のフィジーが民主化をめぐって揺れている。2012年9月19日、国際労働機関(ILO)ミッションが目的を達成できないままフィジーを出国したことが世界の関係者に衝撃を与えている。
 現在の軍事政権は反労働組合的で労働者の諸権利を侵害しているとしてフィジーの教職員労働組合などからILOに申し立てていた問題で、ILOは軍事政権との事前の了解のもとに直接関係者との面談を計画していた。しかし、フィジー訪問中に、首相府から本来の目的と大幅に異なるミッションの付託事項が提示され、合意ができなかったため訪問を中止してすぐに立ち去り、提案された付託事項に留意した訪問を新たに検討するよう要請された。(ILO記者発表)
 かつて南太平洋の楽園とも言われたフィジーで何が起きているのか。
 四国とほぼ同じ大きさの国土に、人口は約85万人。主な民族はフィジー系(57%)とインド系(38%)である。フィジーにインド系の人口が多いのは、英国の植民地時代にサトウキビ栽培のため同じ英国の植民地であったインドから大勢の労働者を契約労働者として移住させる政策がとられたのが始まりである。それ以来、インド系人口も増えフィジー社会で重要な位置を占めるようになった。
 経済は、主に農業と観光で成り立っているが、リゾートはオーストラリア人やニュージーランド人の経営者が多く、フィジー・オーストラリアビジネス協会もある。最近は、軍事政権が中国との関係を強化する傾向にあり、フィジー最大の水産企業も中国の国営企業が運営し多数の中国漁船がみられる。民族的な摩擦もあり、軍事クーデターが起き軍事政権が実権を握ると労働運動も抑圧するということが繰り返され、国際的な非難を浴びてきた。
 ILOミッションは、2009年に公務教育部門の組合指導者の解雇、反組合的嫌がらせ行為や組合内部事項に対する政府の介入などについて、フィジーの教職員組合などから提起された申し立てを受け、事実確定と問題解決支援のためにILOの直接ミッションを受け入れることなどがILO理事会の結社の自由委員会より政府に対して提案され、それを支持する決議が2011年12月に京都で開催された第15回ILOアジア太平洋地域会議でも採択された。この決議を受け、著名なアブデルG・コロマ国際司法裁判所前判事を団長として派遣することを決定した。今年に入って軍事政権の民主化への兆しがでており、経済的にも密接な関係にあるオーストラリアとニュージーランドは今年7月、凍結していたフィジー軍事政権との外交関係を修復させ、対話促進のために大使に相当する高等弁務官の駐在を再開することで合意している。それだけにILOミッションが現地で任務中断を余儀なくされたことを受けILO フアン・ソマビア事務局長(当時)は、フィジー政府の一方的な決定を「結社の自由がフィジーでは極めて危機的な状況にあることが改めて白日の下にさらされた」と強い調子で非難し、「フィジー政府が姿勢を改め、国際社会にとって重要なこれらの事項に関し、ILOと協力を続けるよう」呼びかけた。国際労働組合総連合(ITUC) シャラン・バロウ書記長は「労働者の権利を抑圧している証拠を隠そうとしたことは明らかであり、国連の専門機関であるILOを完全に無視したことを国際社会は容認できない」と非難。
 地理的にも一番近いオーストラリア労働組合評議会(ACTU) ゲッド・カーニー会長は、「ILOとフィジー政府との会談が突然終わった後に起きたこの事件は、バイニマラマ政権が人権を軽視しているという懸念を確認したことになる」と非難した。さらに、民主化に復帰するというフィジー政府の声明が最近あったことから、今回の事件についてフィジー政府に説明を求めるようオーストラリア政府に要請した。
 フィジーは予定されていた民主的選挙を実施していないという理由で英連邦加盟資格を停止されているが、フィジー労働組合会議(FTUC)と英連邦労働グループとの関係に影響はない。
 イギリス労働組合会議(TUC) ブレンダン・バーバー書記長は、今回の事件を受けて欧州連合(EU)がフィジーに課している経済制裁を継続するよう呼びかけるとともに「フィジー政権のこの決定は、いわゆる民主化が見せかけでしかなかったことであり処罰から逃れられない。EUは現行のフィジーに対する経済制裁を強化する可能性を検討する必要がある。フィジーはILOミッションの再開を至急認めなければならない。それが実行されなければ、国際社会から排除されるリスクを負わなければならない」と述べている。なおフィジーはILOの中核的労働基準である8つの条約をすべて批准している。

参考:HP=ILO、ILO東京、ITUC、ACTU、TUC、外務省など

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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