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No.143(2012/9/21)
南アフリカ・プラチナ鉱山での暴動とその背景

 南アフリカ・マリカナにあるプラチナ生産大手の英国・ロンミン社が所有している世界最大級のプラチナ鉱山で8月16日、ストライキ中の労働者3000人が暴徒化し、警官が発砲、双方で死者34人と負傷者78人を出した。この事件は今年8月10日、賃上げ要求のストライキにより、労働者と鉱山会社警備員、警察が衝突し、10人の死者(内2人警官)が出たことに端を発している。
 経営者のロンミン氏は非合法のストライキを実施している労働者に対して、職場復帰の期限を設け、復帰しない労働者は解雇と宣言。ストに参加していない正規雇用者2500人と契約労働者1万人も職場に戻れない状態になっている。
 労働者は4000ランド(約3万8000円)~6000ランド(約5万8000円)の月額賃金を1万5200ランド(約12万円)に値上げすることを要求している。契約労働者の賃金は1日10ドル(約790円)の水準で、南アフリカ労働組合会議(COSATU)から脱退した全国交通運輸合同労働組合(NATAWU)の統制がきかない山猫ストの状況で暴動の背景には複雑な事情がある。
 暴動発生と34人の犠牲者は国民に大きな衝撃を与え、ズマ大統領は事態を収束するため直ちに現地入りし、労働大臣が中心となり8月28日、ロンミン社、労働組合代表、従業員代表、教会NPO代表などによる平和会議が開催され、解決に向けての論議が行なわれた。しかし、労使の主張は強行で賃上げの水準と操業開始については短期間では決着しないと予想された。
 国家検察局は8月30日、警官への責任は追及せず、ストライキに参加していた270人の労働者を殺人共謀罪(Common purpose law)*の疑いで逮捕拘留した。この罪状はアパルトヘイト時代の白人政権が黒人を弾圧するのに使用したもので、国民の激しい反発を誘発した。これにより、世論に押されたズマ大統領と国家検察局は9月2日、270人の共謀罪を取り下げ、全員を釈放した。
 今回の暴動事件は、マンデラ大統領が実現したアフリカ民族会議(ANC)政権が発足して以来、アパルトヘイトが完全に撤廃されても経済格差が拡大していることに起因している。世界銀行の調査によると上位10%の富裕層が所得の58%を占め、50%の貧困層がわずか8%の所得を分かち合っている。このプラチナ鉱山でも1日10ドルで8時間、過酷な地下での削岩労働を強いられている契約労働者の不満が鬱積していたことが挙げられる。
 ANC政権発足時から政権を支えてきたナショナルセンターCOSATUは、こうした貧困層に対する対策より組織労働者の労働条件向上に専念してきた。巨大なマリカナ・プラチナ鉱山の労働者は、COSATU加盟の南アフリカ全国鉱山労組(NUM)と南アフリカ交通運輸合同労働組合(SATAWU)が組織していた。しかし、既存の労働組合活動に不満を持つ労働者によりNATAWUが結成され、さらに今回の暴動後の平和会議には組合未加盟の労働者で選出された代表者も出席し、労働組合に対する不信が表面化した。
 NUMは、失地回復を図るため鉱物資源大臣に対してプラチナ部門での中央団体交渉を提起し、どこの鉱山でも同一労働同一賃金を実現し、契約労働者対策も同時に行なうことを要求している。
 労働者側は9月18日、3週間にわたる交渉の結果、会社側が提案した11~22%の賃上げと約1万9000円相当の一時金支給の案に合意。8月から続いていた大規模なストライキが終結し、20日から鉱山の操業が再開される予定となった。

*common purpose law=事件に関わるすべての当事者の意志の有無に拘わらず、結果責任を問うという法理。この場合は、ストライキを実施した270人に対して34人を殺害した殺人罪が適用された。
 
*1ランド=9.5823円(2012年9月19日現在)
*1ドル=79.145円(2012年9月19日現在)
 

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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