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No.139(2012/8/23)
インドネシアの最低賃金事情

 国際労働財団(JILAF)は、現地支援事業として、開発途上国の労働組合のニーズに基づき、労使関係や組織化、生産性などに関するセミナーを実施している。今回、7月3~6日に、インドネシアで開いた労使関係セミナーやインドネシア労働組合総連合(CITU)役員、セミナー参加者などから得た情報に労働政策研究・研修機構(JILPT)や厚生労働省のデータを参考に補強した同国の最低賃金事情を報告する。

【はじめに】
 JILAFは7月3~6日、インドネシア・ジャワ島スマランで、CITUと共催で、賃金や労使紛争解決などを主なテーマに労使関係セミナーを実施し、労働組合役員29人が参加した。この中で、JILAFは日本の労働事情について説明を行なった後、インドネシア側は団体交渉のロールプレイなどを通じて、インドネシアの労働者を取り巻く環境と課題などについて共有化を図るとともに、セミナーの成果を今後の運動に生かしていくことを確認した。

【インドネシア概要】
 インドネシアは、赤道地帯に広がる約1万8000もの島々からなる国で、日本の約5倍となる広大な国土を有し、東南アジア諸国連合(ASEAN)全体の4割を占める約2億3800万人(2010年政府統計)の人口は、中国、インド、米国に次いで世界第4位となっている。就労人口は1億1700万人で、このうちインフォーマルセクターで働く人々は6700万人、労働人口は4000万人である。しかし、社会保障が適用されている人は労働人口のうち1000万人にすぎない。

【2012年度の最低賃金の動向】
 インドネシアの最低賃金は、州や県、市などの地域ごとに決まっており、州によっては産業ごとでも決まっている。西ジャワ州ブカシ県では、特定の産業を第1グループ(金属、自動車、鉱山・天然ガス、機械、パルプ、飲料、化学など)、第2グループ(食品、繊維、出版・印刷、ゴム・プラスチックなど)に分けて最低賃金を設定している。第1グループである金属産業の最低賃金は、月額184万9000ルピア(約1万5450円、以降月額で表示)と高いが、州内の他の県や市の産業は120万ルピア(約1万円)前後となっている。しかし、金属産業の技能実習生は80万ルピア(約6680円)と低く、技能実習生の期間や年齢に制限が無く、最低賃金を下回る状態が続き、技能実習生のまま正規社員になれないことがある。
 最低賃金を下回る場合は、企業に対する罰則規定があるが、経営不振などで最低賃金の支払い能力が無い場合は、労働移住省に免除を申請することができる。また、賃金未払いや最低賃金に関する法律違反などを取り締まる監督官の数が少ないことや賄賂などによる法律違反も多い。今回セミナーを開催したスマラン県には、800の企業に対して監督官は3人であった。

【インドンシアの平均賃金】
 労働者の平均賃金は、最低賃金の水準より10万ルピア高い程度である。これは、勤続年数が増加し能力や技能が向上しても、それに見合う賃金を支払うシステムが確立されていないからである。場合によっては一生涯最低賃金の水準に据え置かれてしまうこともある。 
 また、最低賃金を引き上げたとしても、すぐに物価が上昇し、購買力が低下してしまうことも問題となっている。このように、生活を維持するのも困難な状況から子供の教育費を捻出することができないばかりではなく、児童労働の原因ともなっている。

【適正な最低賃金水準】
 最低賃金を決定する際には、最低生活必要経費や消費者物価指数、特定地域および地域間の賃金レベル、経済発展状況ならびに1人当たりの収入などをベースに決定する。最低生活必要経費は、1日3000キロカロリーを消費する独身労働者が最低限の生活を営むのに必要な額とされているが、この水準は到底生活を維持できる水準ではない。このため労働側は、適正な水準に引き上げることが必要と考えている。また、最低生活必要経費は、最低限の生活が可能となる生活用品などの価格を調査して積み上げるが、その品目は現在40品目であり、かつての80品目から半減していることが大きな問題であると同時に、各品目の質も精査する必要がある。
 また、最低賃金の決定方法にも問題がある。最低賃金は、州知事が最終的に決定するが、その諮問委員会である地方の賃金委員会は政労使の三者で構成されている。しかし、その割合は2:1:1となっており、政府委員が多くバランスを欠いている。賃金委員会の最終決定が多数決での投票であるため労働側が不利になることは明らかである。
 労働者の賃金実態からもインドネシアの労働者の賃金水準が低く、最低賃金以下の水準で働く労働者の多いことが分かる。CITUが示した資料によれば、月100万ルピア以下の労働者の割合は63.1%と最も高く、次いで月100~200万ルピアの層が27%となっている。さらに、月200~300万ルピアが5.3%、月300~400万ルピアが1.5%、月400~500万ルピアが0.5%となっている。
 CITUは、最低賃金の適正な水準への引き上げについて、ストライキを構えて闘争の強化を図っている。これに対し政府は、2012年の首都ジャカルタの正副知事選挙や2014年の大統領選挙などが実施されることから、労働組合の要求を考慮せざるを得ないと考えている。

【おわりに】
 インドネシア経済は、2011年の実質国内総生産(GDP)は前年比6.5%増となっており、東南アジア地域の主要国の中で最も高い成長率を示している。労働力人口は継続的に増加しているが、それを上回って就業者が増えており、失業率は低下傾向にある。2006年に10%を超えていた失業率は、2011年8月には6.56%となっている。
 急激な経済成長をもたらしたことにより、労働側の賃金引き上げ姿勢は強まっており、日系企業が集積するジャカルタ郊外のブカシ県では、今年1月から賃金の大幅上昇を求める労働者によるデモが相次ぎ、企業の生産に影響を与えている。さらに、6~7月にかけても待遇改善要求として同様なデモが発生。7月10日には、日系工場に部品を納めるメーカーで解雇された労働者の復職を訴える100人を超えるデモが日本大使館前でも発生している。
 JILAFはインドネシアにおいて、労使関係・生産性や団体交渉などの各セミナーを通じて、労使紛争未然防止に努めるとともに、労働組合役員の教育とインドネシアの健全な労使関係構築のため、CITUと連携を強化し、今後も活動を展開していく。

1ルピア=0.0084円(2012年8月22日現在)

インドネシアの最低賃金決定システム
(独法)労働政策研究・研修機構(JILPT)によれば、インドネシアの最低賃金の決定は次のようになっている。最低賃金の決定権限は州知事であり、州ごとの三者構成賃金委員会の検討に基づき州最賃が決められる。各州の事情により県、市レベルの最低賃金を同様の手続きで定めることができる。最低賃金額決定に際し考慮すべき点として、[1]適正生活水準費(政府が州ごとに算出して公表)[2]消費者物価 [3]企業の支払い能力――などを定めている。
  また、CITU提供の資料によれば、ジャカルタ首都特別州の最賃は2011年の129万ルピア(約1万770円)から2012年は152万9150ルピア(約1万2700円)と、18.5%引き上げられた。ジョグジャカルタも同様に10.5%引き上げられ89万2660ルピア(約7450円)となった。
発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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