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No.137(2012/8/14)
ネパール「児童労働撲滅のための学校プロジェクト」
児童労働とは…
原則15歳未満の子供が大人のように働く労働および18歳未満の子供が行なう「子供兵士」など、最悪な形態の労働を指し、子供の心身の健全な成長と健康を妨げ、教育を奪う労働のこと。

 国際労働機関(ILO)の統計によると、全世界では、5~17歳までの2億1500万人の子供たちが児童労働に従事しており、このうち、約1億1000万人は、アジア太平洋地域で占められ、約1億1500万人が危険で有害な仕事に従事していると報告している。
 国際労働財団(JILAF)では、児童労働対策を推進するため「児童労働撲滅のための学校プロジェクト」を1996年からスタートさせ、ネパールとインドで非正規学校を運営している。今号では、ネパールの現状について報告する。

ネパール情勢
 ネパールでは山岳地帯の内陸国という地理的制約に加え、電力、道路、灌漑などの社会インフラ不足などの問題を抱えている。また、主要産業である農業の生産性が低いことや不安定な政治情勢から、経済成長が低く、貧困や失業が課題となっていることから、南アジアで最も所得水準の低い、「後発開発途上国」と位置づけられている。

後発開発途上国=開発途上国の中でも特に開発の遅れている国。最貧国。

児童労働の現状
  現在、ネパールの5~14歳の子供の労働者は、約260万人(2009年・CWINの調査)と推計され、教育の機会、心身の健康など、多くの子供の基本的権利が奪われている。
 児童労働の要因はさまざまだが、主に、[1]古くから子供は家族を助ける貴重な労働力と考えられていること[2]両親が就学経験に乏しく、子供の教育に対する理解の欠如――などがあげられる。
 さらに国境を越えて、インドへの人身売買や少数民族に対する差別も児童労働問題を深刻化させている。ネパール西部のタライ平野では、先住民族・タルー族の人々が、何世代にもわたって親の借金の肩代わりに人身売買され、「債務労働」を強いられる「カマイヤ制度」が今も残り、少なくとも4万人の子供が債務労働に従事している。2001年にカマイヤ制度が廃止されたにもかかわらず…

ネパールで児童労働問題に取り組むNGO

ネパールのカーペット工場
ネパールのカーペットは手織りで模様が美しく世界的に有名だ。カーペットはネパールの主要輸出品目のひとつとして、貴重な外貨獲得源になっている。子供は一労働力として親の手伝いをするのがこの国の習慣であり、子供が働くことで経費を安く抑えることができる。また、子供たちの小さな指がカーペットの繊細な模様を作るのに適していると信じられ、重宝がられている(実際は、子供の手による作業は効率が悪く、カーペット織りには適していない)。

児童労働撲滅に向けて
  ネパールはILOの定める最低年齢や、子供を危険な仕事に使わないという、国際条例を批准している。また、国内法では、1992年に『児童法』を策定し、14歳以下の子供の労働を全面禁止している。
 法律は整っていても、実行力は弱く、法の網をすり抜けて行なわれる児童労働が後を絶たないのが現状だ。現在、国際社会による児童労働撲滅に向けて、さまざまな取り組みが進められている。
 ILOのIPEC(児童労働撤廃国際計画)では、NGOや労働組合と協力し、債務労働が多い、八つの農村地域でモニタリングを実施。村単位で児童労働の予防や児童労働者の救出に取り組んでいる。
 日本政府も、ネパール政府の「教育セクター改革プラン」に対して、「万人のための教育(EFA)プログラム」についてODAを拠出している。

EFA=国連ミレニアム開発目標に基づき、2015年までに世界中すべての子供が初等教育受け、字が読めるようになる識字環境を整備する取り組み。

JILAFの学校プロジェクト
  このような状況から、JILAFの学校プロジェクトでは、現地ナショナルセンターである、独立ネパール労働組合会議(NTUC-I)と協働で、8~14歳までの"最低限必要な教育も受けられない貧困層の子供たち"を対象に非正規学校を9校運営し、基礎教育の機会を提供。基礎教育を学んだ後、公立学校に編入させることを目的としている。プロジェクトの財源の一部は、日本の労働組合からの寄付により賄われている。
 ネパールでは、政治情勢が不安定なこともあり、当初は「政党の支持者拡大のために学校を運営している」との理由から学校プロジェクトが信用されなかったことや、子供を労働力と考えている親の理解が得られず、生徒がなかなか集まらなかった。しかし、JILAFの現地スタッフとNTUC-Iが、保護者や地域社会の意識改革に取り組んだ結果、今では多くの生徒が集まり、地元からも高い評価を得ている。これまでに約7000人の生徒がJILAF校を卒業し、8割以上が公立学校へ編入。今では卒業生が教師として母校に戻り、教壇に立つ光景も見られる。
 また、JILAFの学校プロジェクトの意義に共感する他のアジア地域のナショナルセンターからも「この事業を他の国へ拡大する計画はないのか」「プロジェクトの知識や経験を自国にも波及させてほしい」などの要望が寄せられている。

労働組合との連携および啓発活動
  また、JILAFは、各種イベントの参加や労働組合との連携を通じて、児童労働問題の啓発活動に取り組んでいる。今年度は、児童労働問題に積極的に取り組むNTT労働組合が、「ネパールスタディーツアー」を実施し、組合員や退職者の会会員とともにJILAFの非正規学校である「バクタプール校」を訪問。この中で、[1]児童労働の現状[2]学校プロジェクトの取り組み[3]生徒の家庭訪問――などを通じて、プロジェクトの重要性を学んでいる。
 また、JILAFもNTT労組が主催する「児童労働撲滅イベント in 北海道」「児童労働撲滅キャンペーン in 神奈川」に参加し、ブースを出展。学校プロジェクトの取り組みを組合員や家族、退職者の会会員、一般の方々に伝えている。

おわりに
 JILAFの学校プロジェクトは小規模なものだが、プロジェクトを通じて子供たちの親や地域社会、行政の児童労働に対する認識の変化など、さまざまな効果を生んでいる。今後も児童労働問題に積極的に取り組み、労働組合の設立した団体としての責務を果たしていく。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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