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No.136(2012/8/3)

・日本の中小企業比率の持続的低下傾向

鈴木  不二一
■鈴木不二一 プロフィール
  1946年生まれ。1971年東京都立大学人文学部卒。情報通信産業労働組合連合会(情報労連)に入局。賃金調査部で主に賃金調査と賃金政策を担当。連合総研研究員、同副所長。東京大学社会科学研究所客員助教授を務め、2009~2012年同志社大学・ITECアシスタントディレクター。『社内キャリアと職業生活』『ホワイトカラーのキャリアと労働組合』『現代日本のコーポレート・ガバナンス』著書多数。
日本の中小企業比率の持続的低下傾向
日本の経済・産業において中小企業の占める位置は極めて大きい。OECDが各国の定義を比較した2007年時点の「Structural and Demographic Business Statistics」のデータによると、日本の中小企業は雇用者総数の69%、付加価値総額の53%を占めていた。特に、雇用における比重の高さは顕著であり、OECD加盟国の中で比較的中小企業比率の高いフランス(60.5%)やドイツ(60.4%)を上回っていた。日本の労働者の典型は、量的にみれば中小企業労働者である。
 中小企業は多くの人に就業機会を提供しているだけではなく、産業の裾野を支え、日本産業の競争力を高めている。東京の大田区や東大阪などの中小企業が立地する産業集積地では、日本の製造業の基盤をなす高度な中間財を生み出している多くの中小企業群がある。中には、特定製品で世界シェアの大部分を占める企業もまれではなく、小さいことが弱いとは限らない。
 このように中小企業が重要な役割を果たしているにもかかわらず、現在直面している困難はこれまで以上に深刻化している。2002年から始まった戦後最長の景気拡大の過程では、中小企業は景気の波に乗りきれなかった。その後のリーマン・ショック、未曾有の経済停滞、昨年の東日本大震災――。次々に襲いかかる危機の中でのダメージはひときわ大きく、回復の足取りも遅かった。過去20年の日本経済の「大停滞時代」を通じて、中小企業にはいつの時代も景気回復が十分に行きわたっていない。このことが多くの働く人々にとって回復の実感がわかず、地域経済の疲弊を底上げするに至らなかったことの大きな原因である。
 こうした中で、中小企業の活力減退を示唆するような兆候がさまざまな局面で現れている。その一つが1980年代以降の日本の製造業における小規模事業所(従業員数100人未満)の長期減少傾向である。
 一般に先進工業国では、工業化の過程において大企業や大規模事業所の重要性が高まる一方で、中小企業や小規模事業所の比率は減少傾向で推移してきた。しかし、1970年代を機に、欧米先進工業国の小規模事業所の雇用比率が長期減少傾向から上昇に転じた。そして、新たに台頭した中小企業は新規成長分野における斬新なベンチャー企業を多く含むところから、技術革新による産業活性化の担い手として、中小企業の復権をめぐる論議が活発に行なわれるようになった。
 しかし、日本の製造業における小規模事業所は、欧米先進国の動向とは逆に、1980年代以降も雇用割合の減少傾向が続いている。その要因を分析した経済産業研究所・後藤康雄上席研究員の論文*によると、企業の退出に比べて参入が少なくなっていること、すなわち企業の新陳代謝による産業の活動力が失われていることが最も大きな原因である、としている。
 近年の日本における開業率と廃業率は、ともに国際的にみて低い水準にあり、さらに廃業率が開業率を下回る傾向が過去20年ほど続いている。一般に企業を興す時の従業員数は小規模で始めるのが通例であるから、不活発な開業による企業数の減少は、小規模事業所に影響をもたらすことになる。
 「雇用創造(Job Creation)」には活発な「企業の供給(Supply of Enterprise)」が重要であることが、かねてより指摘されてきた。日本における雇用の量的確保と質的改善のためにも、起業活動促進による中小企業の元気の回復は重要な政策課題だといえる。雇用政策と産業政策の有機的連携が問われるところである。
 
 *「製造事業所の規模分布の変化-産業構造と企業ダイナミクスの視点による分析」<2012>
発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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