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No.119(2012/4/19)

・日本発デニム・ファッションの示唆するもの

鈴木  不二一
■鈴木不二一 プロフィール
  1946年生まれ。1971年東京都立大学人文学部卒。情報通信産業労働組合連合会(情報労連)に入局。賃金調査部で主に賃金調査と賃金政策を担当。連合総研研究員、同副所長。東京大学社会科学研究所客員助教授を務め、2009年より同志社大学・ITECアシスタントディレクター。『社内キャリアと職業生活』『ホワイトカラーのキャリアと労働組合』『現代日本のコーポレート・ガバナンス』著書多数。
日本発デニム・ファッションの示唆するもの
 小雨の上がった東京・銀座中央通りで3月24日、日本製の高品質デニムの青空デニム・ファッションショー「銀座ランウェイ」が開かれ、テレビ・新聞で報道されて話題になった。東日本大震災から1年が経過し、人々を元気づけようという発案者の意図は、まずまずの成功だったと言えよう。
 このニュースは元気ネタであると同時に、意外ネタでもあった。「高級絹織物ならともかく、日常品の分野で日本の繊維産業が中国やインドに太刀打ちできるわけがない」という常識を覆す意外性も茶の間の話題になったことだろう。
 しかし日本の繊維産業の現実は、非常に厳しい状況であることには変わりはない。日本製デニムの生産量も1981年をピークに減少を続けており、デニム生地の用途の8割を占めるジーンズ類の海外輸入が年々増加してきたからだ。1990年代には東アジア製の低価格品ジーンズが世界市場を席巻し、円高の影響もあり"990円ジーンズ"などによる価格破壊も国内メーカーを窮地に追い込んだ。
 しかし、2000年頃を境に、日本のジーンズ産業はヴィンテージものなどのプレミアム・ジーンズの分野で息をふきかえし、その素材を提供する高品質デニムの生産も増加するようになった。そして、日本製高級デニムは品質の高さから欧米での評価が高く、近年、イタリア、アメリカを中心に輸出を伸ばしている。
 銀座通りでの青空デニム・ファッションショーをテレビで見ていて印象的だったのは、パステルカラーのジーンズ、フリルつき豪華ドレス、和服――など、およそデニム素材とは考えられないような多彩なファッション製品が紹介されていたことである。このファッション・センスこそ、いまを時めく「クール・ジャパン」の平成若者文化が生み出したものに他ならない。
 もともと、デニム製品は丈夫さだけが売り物の労働着であった。ロックとともに世界中に定着したジーンズ・ファッションは、反抗する若者のツッパリ文化であり、おしゃれとは縁遠いものであった。むしろ、上品ぶった既成ファッションに反旗を翻す反ファッション性こそが若者の気持ちをひきつけたと言える。
 そこに不思議なおしゃれ感覚を持ち込んだのが原宿若者文化であった。高級ブティックのハイ・ファッションの世界と、ジーンズの反ファッションの世界に二分されていて、中間領域のおしゃれ製品が無かった欧米の市場の空隙を東京発・原宿ファッションが埋めたと言われている。若者でも手が出せる価格のおしゃれ製品という、それまでにないコンセプトが受けて、急速に市場が拡大した。
 いまから10年以上前の2000年に、日本を訪れた「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙」のファッション担当記者スージー・メンキスは、「東京は今やストリート・スタイルの世界の首都だ」と題するレポートで同紙の一面を飾った。彼女は、ガングロ化粧、厚底靴、茶髪・金髪の少女たちが「カリスマ店員」に導かれながら形作る、まかふしぎな渋谷・原宿ファッション世界を新鮮な驚きの目で描写し、これこそ現代の「クール感覚」だと評価したのである。
 いまや、「クール・ジャパン」は、経済産業省がコンテンツ産業の目玉として注目し、外務省も文化外交の一環に組み入れるまでに成長した。日本のデニム業界の頑張りも、モノ創り産業におけるその発展形として理解することもできる。
 日本のモノ創り産業が直面する困難はまさに深刻である。その将来は決して楽観を許すモノではない。しかし軽やかに国境を超えて拡がった「J-POPファッション」とともに素材の創り込みを洗練させ、ユニークな高付加価値製品を生み出してきた日本のデニム業界の経験は、モノ創り産業の将来を考える上でも大きな示唆を与えると思われる。モノに体化させた文化的洗練が、生活の楽しさと明るさをもたらすものとして世界の人々に受容されていくことこそ、究極の産業競争力とは言えないだろうか。
 成熟産業にはもはや国際競争に生き残る道はないとあきらめるのは早すぎる。現場の創意工夫と日本列島の文化力が結合するとき、世界をあっと言わせる新商品が登場する可能性は、ここかしこにある。その可能性を現実化するには、物的資本と技術だけでは不十分であり、新結合を生み出す基盤としての人的資源が不可欠だ。「短期利益志向」の安易な雇用切り捨ては、産業の底力と潜在的可能性の喪失につながりかねない。長期的な視野にたち、産業政策と雇用政策の有機的連携をめざすべきであろう。
タイ経済と労働情勢
はじめに
 
近年、タイでは日系企業をはじめとした多国籍企業の進出により、急激な工業化が進んでいる。こうした中で、バンコクをはじめとする都市部では人口集中とともに、交通渋滞、大気汚染、スラム形成など深刻な都市問題が発生している。一方、タイに進出した日系企業も労使関係などさまざまな問題を抱えている。
 
タイの政治・経済情勢と日系企業
 タイの経済は、2000年代初頭から景気が拡大し、2002~2007年までの実質経済成長率は年率5%程度の成長を達成してきた。しかし、2008年は2.5%、2009年は-2.3%とマイナスを記録した。その背景は、タクシン派の反独裁民主戦線(UDD、赤シャツグループ)と反タクシン派の民主市民連合(PAD、黄シャツグループ)が激しく対立し、タクシン派の政府に対して、PADは空港占拠などの反政府運動で内政を混乱させるとともに、世界的な経済危機の影響が加わったためである。
 その後アジアの景気回復にともない、2010年は7.8%成長となったが、2011年は、7~11月の大規模洪水の影響により1.5%に鈍化した。2012年については、経済状況が通常に戻り、4.5~5.5%に回復すると予測されている。
 タイは近隣のアジア諸国と比較して人件費が高いものの、[1]比較的技術の高い労働力[2]第三国への輸出拠点[3]インフラの整備――など周辺地域より安定した事業を見込めることから、今後も多くの投資が見込まれている。
 現在、タイに進出する日本企業は3133社(2011年10月31日現在)。製造業が1735社(55.4%)で過半数を占め、卸売業739社(23.6%)、自動車部品製造94社など、自動車関連の産業だけで252社(8.0%)を数える。在バンコク日本人商工会議所への加盟企業は約1300社を数え、タイ全土で約4万7000人の日本人が働いている。日本のタイへの投資額は、2010年度で2,360.59億バーツにのぼる。
 
 *1バーツ=2.6366円(2012年4月19日現在)
 
労働情勢と最低賃金の状況
 タイの失業率は、2007年が1.38%、2008年は世界的な経済危機の影響を受け2.08%にまで上昇したが、その後の景気回復により2010年は1.04%に改善した。年代別にみると、15~29歳の若年労働者の失業者数が最も多く、女性より男性の失業者が多い傾向にある。
 最低賃金は、産業や職種別ではなく地域別に定めている。2012年4月1日に改定された1日あたりの最低賃金は、バンコクやサムットプラカーンなどの首都圏では215バーツから300バーツ。プーケットも221バーツから300バーツ、そのほかの70県でも40%引き上げられた。政府は2013年4月に再度最低賃金の引き上げを行ない、全県一律300バーツとする方針を打ち出している。
 
タイの労働組合
 タイで労働組合を設立するためには、『労使関係法』(1975年制定)の規定に基づき、同一使用者または同一産業に従事している10人以上の労働者が必要となる。また、同一使用者または同一産業を基盤とする2つ以上の労働組合は、労働組合連盟を結成することが認められ、さらには、15以上の労働組合または労働組合連盟があれば、ナショナルセンターとしての登録要件は満たされるとしている。
 2011年1月現在、登録されている労働組合は1334、労働組合連盟は19、ナショナルセンターは13であるが、組織率は3%に満たないのが現状だ。労働組合は、ILO第87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)、第98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)を批准するよう政府に求めているが、まだ批准していない。
 タイのナショナルセンターは、財政基盤、事務局体制が弱く、分裂を繰り返してきた結果、小規模なナショナルセンターが乱立し、組織の基盤は脆弱である。
 
おわりに
 経済発展の続くタイだが、一方で格差拡大による貧困層の増加などの社会問題も抱えている。また、労働組合の分裂による組織の弱体化、非正規雇用の増大、労働者教育の必要性など、労働組合が抱える課題も多い。
 今後も多くの多国籍企業がタイに進出してくることが予想され、タイの労働者の生活向上、雇用の安定、労働条件の改善のために、さらなる労働組合の組織強化が求められている。
 JILAFはタイにおいて、労使関係・生産性セミナー(PROGRESS)やインフォーマル労働者への草の根支援事業(SGRA)を通じて、労働組合役員の教育とインフォーマル労働者の生活水準の向上に寄与してきた。特にSGRA事業では、現地事務所を開設し、支援体制を強化したところである。
 今後も国際協力と社会開発事業を展開し、労働運動の強化・発展と経済開発に貢献し、雇用の安定に資するよう活動を進めていく。
発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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