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No.110(2012/2/29)

・工場を飛び出すロボットたち

同志社大学 ITEC
 鈴木  不二一
■鈴木不二一 プロフィール
 同志社大学・ITECアシスタントディレクター。
 1946年生まれ。1971年東京都立大学人文学部卒。情報産業労働組合連合会(情報労連)に入局。賃金調査部で主に賃金調査と賃金政策を担当。連合総研研究員、同副所長。東京大学社会科学研究所客員助教授を務め、2009年より現職。『社内キャリアと職業生活』『ホワイトカラーのキャリアと労働組合』『現代日本のコーポレート・ガバナンス』著書多数。
工場を飛び出すロボットたち
 今年に入り小正月を少し過ぎた頃、新聞の片隅に、小さな、小さな・・・しかし、産業人にとっては、まさに心ときめくニュースが掲載された。
 東京下町の町工場のグループが、深海8000メートルに挑む無人探査機「江戸っ子1号」プロジェクトの開始を紹介する記事であった。試験潜水は本年夏、完成目途は2013年だという。深海に眠るエネルギー・鉱物資源の探索での活躍が期待されている。
 開発グループは、東大阪の中小企業グループによる小型人工衛星「まいど1号」に刺激を受けたという。日本産業の基盤を支える中小企業の技術力を示すチャレンジでもある。ほぼ同じ頃、小惑星探査機「はやぶさ2」(2014年度打ち上げ、2020年頃の地球帰還予定)の開発開始も発表されている。
 これらの無人探査機は、高度なロボット工学技術の結晶で、広い意味では「ロボット」に分類される。宇宙の果てと深海の底を両極として、いまロボットたちは、工場の門を出て、宇宙へ、深海へ、そして街の中へ――と大きく飛び出そうとしている。この二つのニュースは、そのことを象徴する記事であった。
 しかし足下の数字では、現在生産されているロボットは、そのほとんどが製造分野で用いられる「産業用ロボット」であり、いまのところほとんどのロボットは工場の塀の中で黙々と製造支援作業に従事している。われわれがイメージするほど、身近な生活の中に存在しているわけではない。
 しかしこれから数十年の間に、ロボット産業は様変わりともいえる大きな構造変化を遂げることが予想されている。まず、第一に、多くのロボットは工場から街の中へと出ていく。第二に、さまざまな分野・用途向けの多様化が顕著に進展する。
 経済産業省の「2035年に向けたロボット産業の将来市場予測」では、2035年の市場規模は9.7兆円となり、現在の10倍以上に急拡大すると予想され、サービス分野やロボテク製品が大きくシェアを伸ばす。2035年時点の市場シェアは、「サービス分野」51.1%、「製造分野」28.1%となり、現在の製造分野でのシェア90%強という状況から、サービス分野を中心とした構成へと大きな構造変化が起きる。
 このようなロボット産業の構造変化は、日本だけではなく、ほぼ世界共通のトレンドである。その雇用と暮らしへのインパクトはどのようなものとなるだろうか。
 まず、雇用について、国際ロボット連盟は2011年11月、「ロボットで2016年までに100万人以上の雇用を創出し、将来的にロボット工学は、雇用創出の牽引車となりうる」との予測を発表している。ロボットの多様な展開は、雇用創出と雇用喪失の両面の効果を持つだろう。前者が後者を凌駕して雇用の牽引車となるためには、「政策宜しきを得た場合」という重要な前提条件がつくことは言うまでもない。
 暮らしへのインパクトについては、介護・医療など、さまざまな生活支援目的でロボットが広く展開し、身近な生活の中で「ヒトとロボット」が接触する機会が増えていくだろう。このような状況となれば、ロボットが主に工場内で展開していた時とは、異なる新たな安全基準が求められてくる。
 「ロボットと共存する安全安心な社会システムの構築」に向けて、すでに政策実践は開始されつつある。厚生労働省は「介護・福祉ロボット開発・普及支援プロジェクト」を発足させ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「生活支援ロボット安全検証センター」を設置するなど、さまざまな機関で、多角的な取り組みが展開されている。「ヒトとロボットの共生」という政策課題をめぐって、大いに公論を盛り上げ、政策宜しきを得る条件を整備していくことが重要だ。
 さらには、ロボットをめぐるハード・ソフト両面での国際的な技術・経験交流と政策協調への配慮も忘れてはならない。「ヒトとロボットの共生」による世界平和の実現こそ、灰燼に帰した戦後日本の「科学の子」鉄腕アトムの切なる願いでもあったことを忘れない方がよいだろう。
発行:財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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