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No.22(2010/2/26)
マレーシアにおける労働組合権の制限

 国際労働組合総連合(ITUC)は、2010年1月18日、マレーシアにおけるILOの8つの中核的労働基準の批准・適用状況に関する報告書を発表した。この報告書は、2010年1月18~20日、ジュネーブで開かれた国際貿易機関(WTO)総会で、マレーシアの貿易政策に関する検討会議に向けて作成された。
 マレーシアはILOの中核的労働基準の8つの条約のうち5つを批准しており、団体交渉権に関する第98号条約は批准、結社の自由に関する第87号条約を未批准である。
 また、ナショナルセンターは、ITUCに加盟しているマレーシア労働組合会議(MTUC)で、加盟人員数は54万7000人となっているが、組織率は7.8%と低い水準となっている。

団結権の制限
 マレーシアの法律では、労働者に労働組合活動に従事することを認めているが、多くの制約を課しており、特定の公務員は法律の適用範囲から除外されている。また、『労使関係法』により政府が任命する労働組合登録担当官は公務員を分類する上で、その内容を自由な裁量で決定する絶対的な権限を有している。
 マレーシア最大の産業である電子産業では、労働者は産業別労働組合を結成することを禁止しており、労働組合の活動は企業内のみに制限されている。これは外国からの投資を刺激し国際競争力を維持するための政策とされている。
 また、労働力の約25%を占める250万人の外国人移民労働者は、「移民労働者はいかなる団体への加入を禁止する」との内務省の規定により、労働組合に加入することができないため、経営側はこの規定を自らの都合良く乱用しているのが現状である。
 しかし、MTUCは「マレーシアの労働組合法では、労働組合の結成や合法的な活動に対する介入や抑制を禁止しているため、労働組合の結成と発展が妨害されている」と政府にたびたび抗議している。また、ILOも『1967年労使関係法』に関しても、結社の自由に大きな制限を設けているため、「労働組合法と労使関係法の規定は、ILO第98号条約の規定と合致しない」と指摘してきたが、2008年に行われた『労働組合法』『1967年労使関係法』の改正では、[1]労働組合と協議すること[2]ILOの勧告を考慮すること――もなく、改正が行われた。
 このような状況からマレーシアでは、労働組合を結成するのは容易なことではなく、政府が任命する労働組合登録担当官は、労働組合を監視・監督する権限を有し、理由を提示することなく“労働組合登録を拒否すること”ができ、人的資源省は国内治安や公共秩序を理由に6ヵ月間にわたって労働組合の活動を停止する権限を有する。さらに、不法に解雇された労働者に対して、裁判所による「復職命令」を経営側が履行せずとも罰則はなく、この命令を無視することが多い。
 また、労働組合登録担当官から労働組合結成の承認を得た後、『労使関係法』の下で、経営側は認知を求める労働組合の要請に21日以内に応えなければならないが、これに応えない場合が多くあり、その時、労働組合は関係政府機関に一定の期間内に書面による要請を行わなければならない。しかし、この要請が行われないと労働組合は自動的にその地位を失ってしまい、この手続きは決着するまで5年の歳月がかかることも多くある。しかも、その期間は労働組合の活動は制限される。
 このような案件が2008年には18件発生したが、その一つは日本の多国籍企業の「キャノン」である。労働組合が同社の労働者の60%以上を代表しているという政府の証明書があるにも関わらず、キャノンは労働組合の承認を拒否した。キャノンはこの案件を高等裁判所に持ち出したため、この案件は決着までに5年を要することとなった。その間、経営側は労働組合と交渉する義務はなく、2008年末までにほとんどの組合員は組合費の支払いを中止してしまう事態となる。
 労働組合は一般合同労組、もしくは全国連合体を結成することができないことから、MTUCは労働組合の連合体としては承認されておらず、『団体法(Societies Act)』の下で結成された団体として承認されている。一般合同労組の結成も禁止されており、労働組合員は同じ職種の労働者のみに限定されており、国際労働団体に加盟する場合には政府の事前承認を必要とする。

団体交渉権の制限
 労使関係法により、[1]採用[2]解雇[3]復職[4]配転[5]昇進――は「経営側の専権事項」として団体交渉事項から除外され、2008年度の改正ではさらに範囲が限定されており、技能向上のための訓練や賃金制度の年次見直し、成果主義制度の3つの事項のみに制限された。
 一方、公務部門では政府は団体交渉に代わり、合同協議会を使っている。この協議会で労働組合は諮問的な役割しか果たしていない。さらに『労使関係法』は労働大臣の自らの意思による強制仲裁を認めており、これはILO条約が規定する労働協約の任意の交渉という原則に全面的に違反している。
 法律では合法的な労働組合活動への参加を理由として経営側が報復措置をとることを禁止しており、差別を受けた組合員は、人的資源省もしくは労働裁判所に苦情を訴えることはできる。しかし、両機関ともその非効率性で労働組合から厳しく批判されている。

ストライキ権の制限
 ストライキ権は明記した形で承認されてはおらず、合法的なストライキを行うことは実質的に不可能となっており、MTUCの報告によると、2008年の期間に8件の昼食時間の抗議集会や1日怠業行動はあったが、ストライキは行われなかった。
 労働組合の承認や違法解雇などの問題では、労働組合がストライキを起こすことはできず、ゼネストや連帯ストライキも禁止されており、違法なストライキを指導する労働組合指導者に対しては、罰金や1年間の拘留までさまざまな罰則が規定され、参加した組合員は組合員資格を失う。さらに不可欠業務が広く定義され、ILOが規定する厳密な定義には当てはまらない教育や運輸、その他の業務に適用されている。不可欠業務における争議行為は強制仲裁の対象となる。
 ストライキを宣言するためには、『労働組合法』の規定により、労働組合は組合員の秘密投票による3分の2の賛成票が必要であり、投票結果は政府に確認のために送付され、「冷却期間」が開始され、人的資源省に争議が存在することが通告される。冷却期間中に人的資源省が調停に乗り出すこともあり、調停が失敗すると労働裁判所に付託され、その期間はピケットやストライキ、ロックアウトは禁止される。さらにマレーシアの刑法は、5人以上の集会は警察の事前許可を必要としている。

発行:財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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