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No.3(2009/10/04)
高橋専務理事・インタビュー
国際労働財団・高橋専務理事がシンクタンクより、インタビューを受けています。この様子をお届けいたします。

1989年、労働分野における国際的な交流と協力を推進するために設立された国際労働財団。アジア各国をはじめ、海外の労働組合関係者を日本に招いての相互理解の促進(人物招聘事業)や、開発途上国の労働団体にむけた研修の提供、現地で行われる教育活動や社会開発活動の支援(現地支援事業)を行っています。経済のグローバル化が進む中で、国際労働運動をどのように進めていくべきかをお聞きしました。
(聞き手:仕事と暮らしの研究所)

【海外との連携で労働組合の発展をめざす】

―JILAFが設立された背景と、現在の活動状況を教えてください。

JILAFは労働分野における国際交流・協力を推進する組織として、1989年5月に日本労働組合総連合会(連合)により設立されました。設立当初は7人の役職員で事業をスタートさせましたが、現在は20人体制でさまざまな事業を行っており、招聘事業、現地支援事業、広報、総務、財政の5グループを構成しています。主な事業は、招聘、現地支援、人材育成、広報の4事業です。設立当初からスタートした招聘事業では、発展途上国の若手労働組合指導者を「地域別」「テーマ別」でチームを編成し、1チーム10人前後で年間11~12チームを招聘しています。2週間さまざまなプログラムを行いますが、参加者は国際労働組合総連合(ITUC)に加盟している各国ナショナルセンターの推薦により招聘され、この20年間で参加者は126ヵ国・3地域から2,227人にも達しています。

―招聘事業の具体的な取り組み内容を教えてください。

招聘事業の目的は、途上国の自由にして民主的な労働組合の発展に寄与し、その社会的な影響力を高めていくことにあります。したがって、私たちはその手助けが少しでもできるよう労働組合として、社会や政治、経営に対するチェック機能や政策提言能力を高めるためのプログラムを用意しています。来日後、まず日本の労働運動、労使関係、労働行政、さらには生産性運動などを学んでもらいます。また、連合や日本生産性本部、厚生労働省などの労働関係組織や官庁を訪れ、来日して一週間後には招聘対象国の労働事情に関して意見交換会を開催します。また47都道府県にある地方連合会の協力により、「地方連合プログラム」を実施しており、参加者は地方連合会を訪問し、地方企業の労使や地方自治体との意見交換を行っています。またプログラム中に必ず広島か長崎訪問も入れており、原爆資料館や原爆ドームなどを見学します。これは平和運動そのものを学び、平和の重要性について自ら感じてもらいたいからです。加えて、それぞれ固有のテーマに沿って「テーマ別・労働組合指導者招聘」も行っています。昨年はグリーンジョブとディーセントワークに主眼をおいたチームを編成し、国際シンポジウムを開催しました。日本を訪れた私たちのプログラム参加者の中には、10年、20年経って労働運動のリーダーになっている方が大勢います。それ以外にも政界や経済界で活躍されている方も多く、そのことが私たちの誇りでもあります。

―招聘事業が途上国の人材育成につながっているのですね。来日される方々は、日本の文化・考え方をはじめて目にし、発見の連続だと思います。その発見が自国の労働運動に新しい動きを起こすきっかけとなっているのでしょう。

そうですね。日本の労使関係や日本型の経営は、世界各国から見ると非常に特殊かもしれません。途上国には労働組合の発展という以前に、「労働運動」「団結権」などが公式に認められていない国も多く、労働組合に加入すると逮捕されてしまうこともあるのです。また、そうでない国でも、生産性運動そのものの考え方は理解してもらえるのですが、「そんなことをしているうちに解雇されてしまう」と考え、なかなか行動に移せない組合が多いのが実情です。一方、労働組合が主体的に生産性運動に取り組んでいる実態が理解できず、「何で組合がそんなことをしなければならないのか」という意見もよく聞かれます。

―発展途上国では、労使の対立が厳しいために、そのようなことになってしまうのですね。本来“生産性向上"は労使双方にとってメリットが大きいので、本質を理解してもらえれば、充分に浸透するのではないでしょうか。

はい。はじめは「労働組合の仕事ではない」と言っていた方も、プログラム終了時の評価会では、ほとんどの人が「生産性運動の取り組みにとても興味がある」という感想が聞かれます。従業員のディーセントワークという考えも、やはり雇用安定が基本であり、企業との雇用契約がしっかりと保証されて、はじめて安心して働けるのです。日本では正規雇用と非正規雇用の問題がクローズアップされていますが、途上国には正規と非正規が“ごちゃ混ぜ"という国も多くあります。私たちはそのような状況に対して、日本での取り組みの経験を活かし、労働組合が力をつけて正当な労使関係を作っていくお手伝いをしているのです。

―現地支援事業も招聘事業とともにJILAFの柱になっているのですね。現地支援事業に関しても特色があるそうですね。

私たちの現地支援事業の特徴は、連帯を基盤にナショナルセンターとの信頼関係を築き、そこで彼らのニーズをきちんと把握することで、現地の自主性を活かすところにあります。組織によっては自分たちの考えに沿った押し付け的な援助を行うところもありますが、われわれはどのような組合教育や社会開発に関心を持っているのかを把握して、それに沿った協力をしていく形をとっています。最終的には自立をしてもらうことを目標にしているので、すべてをこちらの意志通りに行うということはしません。

―労働組合側が自立をして、自らが主役になっていかなければ正当な労使関係はつくっていけないということですね。

そうです。イニシアティブは基本的に現地の組合にあります。そこに資金的な援助や日本のノウハウを伝える形の支援を行っています。

―具体的にはどのようなプログラムを行っているのですか?

「職場の環境改善プログラム(POSITIVE)」は、現地で行っているコアプログラムです。このプログラムもわれわれが定めた方向性を押し付けるのではなく、労働組合が主導的に労働安全衛生の環境改善を行うもので、JILAFと労働科学研究所の共同で開発されました。導入期・安定期・発展段階などのいくつかのステージがあり、ステップアップすることにより成長していくものです。現在までに11ヵ国で約1000回以上のセミナーを実施しており、平成21年度事業では東ティモールで開始しました。また、労働組合自身の力で指導者を増やすために、上級トレーナー育成にも力を入れています。

― 一時的な成長ではなく、将来の人材育成もビジョンに入れた支援プログラムなのですね。プログラムを実施するに際して、何か苦労されたことはありますか?

このプログラムを行い、生産性向上のためには、企業の仕組みそのものを変えなければならないこともあります。しかし、その仕組みをこちらが勝手に変えることはできません。現地の労働組合がチェックを行い、問題点を見つけ、改善策の提案をし、労使に理解してもらうことが重要です。日系企業では労使間の協力が必要と考えているところが多くあり、組合からの提言は歓迎されています。しかし、まったく相手にしてくれない企業もあり、その場合の対応は難しいですね。

―組合の提言に耳を傾けるという土壌がないところには、どのような働きかけを行っているのですか?

“自分たちはこのようなスキルがあり、多くの実績がある。その経験を活かした提案を行いたい"と繰り返しアピールしていくしかないですね。

―賢い経営者ならばプログラムを取り入れることの有効性に気がつきやすいでしょうね。JILAFの活動の中には、学校の運営もあるとお聞きしましたが、こちらはどういったものでしょうか?

これは「児童労働をなくすための学校プロジェクト」です。現在はネパールで9校・インド1校の非正規学校の運営を現地の労働組合と協働で行っています。これは地元の組合が学校の校舎と教師を用意し、JILAFは子どもたちのために制服や学用品、教師の給料などを提供しています。JILAFの非正規学校では8~14歳の子どもを対象にしており、3年間のプログラム終了後は正規学校へ編入を支援しています。

―中・長期的に考えれば、子供たちを育てることはとても大切なことですからね。現在は新規事業として、エイズのセミナーに取り組んでいるということですが、それはどのような取り組みですか?

HIV感染予防は無論重要ですが、同時に陽性者の職場における差別の防止や人権の確立など、労働組合が取り組むべき課題は多くあります。われわれは東京大学・国際地域保健学教室の指導のもと、エイズ対策のテキストを作り、職場に感染者がいた時にどのように接していくのかを労働組合の役員に理解してもらい、職場を指導するトレーナーを育成しています。このプログラムは外務省の協力事業として、本年3月からスタートした新規事業です。

―お話を伺っていて、労働組合からの視点で物事を見るというのはとても大切だと感じました。最近は景気も悪く、組織の士気が下がってしまっているところが多いですが、やれることは沢山ありますね。

【JILAFの今後の取り組みとは】

―現在、日本国内では労働人口の減少が社会問題化しています。そこに、諸外国からの労働者が入ってきたときに、今問題になっている、正規・非正規問題の枠を超えた外国人労働者の問題が出てくるかと思います。最後にその問題に対する、JILAFとしての考えをお聞かせ下さい。

その問題は次のステップとして視野に入れていかなければならない問題だと考えています。韓国にはJILAFと同じような招聘事業を行っている国際労働協力院(KOILAF)という組織があります。このKOILAFは、招聘事業の他に外国人労働者の教育事業を行っており、その中で7ヵ国語の「労働相談センター」を開設しています。ここで外国人労働者から寄せられるさまざまな悩みに応えているのですが、JILAFでも、外国人労働者のために何かできるかを考えていくことは必要だと思っています。

聞き手 仕事と暮らしの研究所

発行:財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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